2024年10月26日、2023年労働者保護(2010年平等法改正)法(Worker Protection (Amendment of Equity Act 2010) Act 2023)が施行されました。これにより、雇用主は職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するための「合理的な措置」を講じる義務を負うことになります。本ニュースレターでは、この義務の意味合い、雇用主が負う可能性のある責任、法的リスクを軽減するために講じることのできる措置について解説をします。
雇用主は通常、ハラスメントに対してどのような責任を負うのか?
現在でも、雇用主は、ハラスメント(セクシュアルハラスメントに限りません)の発生を防げなかった場合、従業員が業務上行ったハラスメントについて、使用者責任を負う可能性があります。場合によっては、職場外の従業員の行為についても責任が生じる可能性があります。つまり、ハラスメントを行った個人だけでなく、雇用主も、雇用審判所から責任を問われる可能性があるのです。
新しい義務とは?
ハラスメント被害者から損害賠償請求を受けた場合、雇用主は、ハラスメントの発生を防止するために積極的かつ合理的な措置を講じたことを証明する必要があります。これは従業員に対して独立した権利を与えるものではありませんが、雇用主が予防措置を取らなかった場合、セクシュアルハラスメントに関わる訴訟上の請求についての賠償額が25%増額される可能性があります。そのため、雇用主は今回の法改正に備えることが強く推奨されます。
セクシュアルハラスメントとは何か?
一般的にハラスメントとは、脅迫的、敵対的、攻撃的または屈辱的な環境を創出する目的または効果を持つ、望まれない行為を
指します。当該行為が性的性質を持つ場合、これを他のハラスメントと区別して、セクシュアルハラスメントと呼びます。
セクシュアルハラスメントは、行動または言葉によって生じます。現代生活において重大なリスクがあるのは、メッセージアプリやオンラインプラットフォームを使用する場面であり、多くの法的請求の発端がここで発生しています。そのため、企業は不適切なやり取りが行われる可能性があることに注意する必要があります。
審判所は被害者にどのような判決を与えることができるのか?
セクシュアルハラスメントの被害者は、感情傷害(injury to feelings)に対する補償の申立てをすることができ、その補償額は判例にちなんで命名された「Vento bands」を用いて評価されます。これらは、ハラスメントの重大性を分類し、補償額を決定します。これとは別に精神的損害に対する人身傷害の請求を、審判所で請求することもでき、賠償額は同様の方法で評価されます。請求者は、感情傷害と人身傷害の両方の賠償を受けることはできません。
Vento Awardsについて
Vento bandsは、感情傷害に対する補償額を評価するための枠組みを以下のとおり提供しています。
- Lower Band:約£1,200から£11,700、単発的な事件など、それほど深刻でないケース。
- Middle Band:約£11,700から£35,200、Upper Bandに該当しないケース。
- Upper Band:約£35,200から£58,700、長期にわたるハラスメントなど、最も深刻なケース。
みなし解雇
ハラスメントが耐え難い職場環境につながる場合、従業員は退職し、みなし解雇されたと主張することができます。この場合、性差別やハラスメントと同時に不公正解雇を申立てすることになり、雇用主が負う可能性のある金銭的責任が大幅に増大することになります。職を失った結果、従業員が経済的損失を被った場合、不公正解雇に対しては最高1年分の給与(上限£115,115)、差別に対しては無制限の賠償金を請求することができます。
申立て
セクシュアルハラスメントは個人を苦しめるだけでなく、その対応も大変な労力を要します。セクシュアルハラスメントの訴えに対抗することは、もちろん雇用主にとってコストがかかります。また、精神医学的な影響を立証するために医学の専門家を必要とすることにより、法廷手続の複雑さと費用を増大させます。雇用主はしばしば、訴訟の金銭的・風評的コストと、申立てを早期に解決するメリットとを天秤にかける必要に迫られます。
雇用主のための積極的な対策
雇用主にとっての朗報は、セクシュアルハラスメントの発生リスクを減らすための対策を講じることができ、これが、ハラスメントの訴えに対して強力な防御策となることです。適切な対策を講じることにより、賠償額の25%増額を避けるだけでなく、責任そのものを回避する助けにもなります。 企業が行うべき対策としては以下のものが挙げられます。
- リスクアセスメントを実施し、セクシュアルハラスメントが起こる可能性がある場所を検討する(例えば、単独勤務、雇用の不安定さ、顧客と接する役割など)。
- 明確な方針を策定して、不適切な行為を定義し、容認されない行動を詳細に説明するとともに、その方針が違反された場合にどうなるかを明示する(既存の方針を更新または置き換える必要がありうることを念頭に置く)。
- 報復を恐れずに名乗り出ることを従業員に奨励するために、明確な通報制度を備えた手続を設ける。
- 通報された内容とその対処方法を記録するシステムを導入する。
- オンラインコミュニケーションの普及を考慮し、メッセージアプリの使用に関するガイドラインを設定し、従業員がこれらの基準を確実に守るよう徹底する。可能であれば、システムを監視して不適切なやり取りを検出し、対処する。
- 問題対処に関する管理職の研修。
- 何よりも、従業員がセクシュアルハラスメントとその結果を認識できるよう、従業員研修に投資すること。さらに良いのは、研修を定期的に実施することであり、これにより、互いを尊重する職場を維持する重要性を強調し、新しい従業員を含め、全員が方針を理解することができ、また、審判所に対しても、雇用主がセクシャルハラスメント防止に真剣に取り組んでいることを示すことができます。
さらなる変更は?
新政権は、雇用権利法案において、雇用主に対してセクシュアルハラスメントを防止するための「全ての合理的な措置」を講じることを求めることで、雇用主の義務をさらに強化することを約束しています。「全ての」という言葉が追加されたことで、上記の推奨事項や平等人権委員会(Equity and Human Rights Commission)のガイダンスに示された推奨事項を全て実施すべきということになる可能性があります。
結論
セクシュアルハラスメントを防止する新たな義務の導入により、事前の備えの重要性は増しています。研修への投資、効果的な方針と手続の確立など、事前の対策を講じることで、企業は安全で互いを尊重する職場を作り、評判を守り、高額な賠償請求を受けるリスクを軽減することができます。
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