コロナによるパンデミック発生後、初めてリモートワークについて検討された裁判の1つにおいて、雇用審判所が在宅勤務のみを希望した従業員からの請求を拒否しました。雇用主が従業員にフルタイムでのオフィス勤務を求め、あるいは近い将来そうすることを検討している中、この従業員の請求が拒否された理由と、法廷の判決から雇用主が留意すべき重要なポイントについて考察します。フレキシブルワーキングの申請についての詳細は、以前のニュースレターでもご覧いただけます。
これはどのようなケースだったのでしょうか?
Wilson v Financial Conduct Authority (FCA) [2023] のケースでは、ウィルソンさんはマネージャーとして雇用され、彼女は2020年初頭から在宅勤務をしていました。2022年に雇用主が従業員に週2日オフィスに出勤し、他の日は在宅勤務をするように求めました。彼女は在宅勤務のみを希望するフレキシブルワーキングの申請を提出しましたが、その申請には健康上の理由がなく、雇用主はこれを拒否しました。これを受け、彼女はフレキシブルワーキングの申請が「誤った事実」に基づいて判断されたと主張し、雇用審判所に申し立てを行いました。
なぜ従業員は敗訴したのでしょうか?
ウィルソンさんはマネージャーであり直属および間接的な部下が相当数いること、またオフィスに一切出勤したくないという本人の希望が不利に働きました。審判所では、「迅速な話し合い」と「非言語的なコミュニケーション」のためには、オフィスに物理的にいる方が良いことが認められました。彼女がオフィスに出勤しないということは、対面式のトレーニング・セッション、週1回の「カスケード」ミーティング、アウェイデイや戦略ミーティング、新入社員の対面式研修などを欠席することを意味しました。彼女は非常に優秀で、在宅勤務でも良好な人間関係を構築していたにもかかわらず、審判所は「結局のところ、彼女は被告が期待しているような働き方をしていない」、そして完全在宅勤務は彼女のパフォーマンスに「潜在的な」リスクをもたらすと指摘しました。つまり、対面でのやりとりが完全に欠如した結果、仕事の業績やクオリティに悪影響を及ぼす可能性があるという雇用主の懸念は十分であったことを意味しました。
このケースから学ぶ重要な留意点は何でしょうか?
審判員は、テクノロジーが進歩したとはいえ、会議のような正式な場以外での非言語的コミュニケーションを観察し、それに対応することは、他人と仕事をする上で重要なことであり、これは対面でしかできないことだと指摘しました。どんなに優れた業績を上げていても、在宅勤務の弱点を補うことはできません。
彼女は本質的な請求では敗訴しましたが、FCAが決定を通知する法定期限である3ヶ月を遵守していなかったため、従業員には補償として1週間の給与相当額が支払わられることになりました。このように雇用主は、法律で定められた期間内に決定を伝える、もしくは期間延長に同意する必要があり、この法定期限は2024年4月以降、2ヶ月になります。
この決定は、雇用主が在宅勤務の申請をすべて拒否できることを意味するのでしょうか?
そうではありません。全てのフレキシブルワークングの申請は、個別の実態に基づいて検討されなければならず、特に、従業員自身の健康状態に不安や障がいの可能性がある場合、または育児やその他の家族関連の理由で申請がなされた場合は特に注意が必要です。雇用主は、機械的に勤怠ポリシーに従うのではなく、各フレキシブルワーキング申請の本質を見極め、論理的に判断する必要があります。また、意思決定者は、最終的に審判で審議される可能性があるため、意思決定の根拠を明確かつタイムリーにに記録しておく必要があります。
この判決は、リモートワークとオフィスワークの適切なバランスを取るという現在進行中の課題を浮き彫りにしており、雇用主と従業員の意向の間では依然として緊張が続いています。フレキシブルワーキングを申請する権利がまもなく「入社日」権利となり、従業員は12ヶ月ごとに2回申請する法的権利を有することとなるため、雇用主は従業員からの申請の増加に備えておく必要があります。
しかし、在宅勤務にはいくつかのリスクが伴うので、従業員はくれぐれも慎重になるべきです。 最近The Telegraph紙で報じられたように、ある調査によると、在宅勤務をする従業員は生産性が低く、上司から会社とのつながりが薄いと思われ、整理解雇の対象となる可能性が高いと発表されました。
3CSにできること
3CSでは、フレキシブルワーキング制度の変更に向けた準備として、ポリシーの更新や、従業員からの申請を拒否する場合の従業員との協議といった新たな要件に関する個別のトレーニングの提供など、貴社のビジネスに対するアドバイスとサポートを提供いたします。雇用法に関するご質問やご相談については、担当者へお問合せください。