新たな2023年労働者保護(2010年平等法改正)法(Worker Protection (Amendment of Equity Act 2010) Act 2023)は、雇用主と職場におけるセクシュアルハラスメントにとってどのような意味を持つのか?
CBI(英国産業連盟)、マクドナルド、オデイ・アセット・マネジメント、NHSの外科医を揺るがすスキャンダル報道等、職場におけるハラスメントの疑いに関するニュースが報道されない週はほとんどありません。 Women and Equalities Select Committeeによる職場におけるセクシュアルハラスメントの広がりを強調した報告書を受け、雇用主にセクシュアルハラスメントの問題へのさらなる取り組みを求めるWorker Protection (Amendment of Equity Act 2010) Billが提出されました。 既存の法的保護にもかかわらず、セクシュアルハラスメントは依然として蔓延しています。
2023年労働者保護(2010年平等法改正)法(Worker Protection (Amendment of Equity Act 2010) Act 2023)は2023年10月26日に国王裁可を受けました。同法は、2024年10月26日に施行され、同日以降、英国内の全ての雇用主及び従業員に適用されます。本ニュースレターでは、ハラスメントを防止するための雇用主の新たな強化された義務と、全ての雇用主が、雇用主自身とそのスタッフが施行に備えるために実施すべき事項について取り上げます。
ハラスメントとは何か?
ハラスメントは差別の一形態です。 2010年平等法(Equity Act 2010)は、年齢、障がい、性転換、人種、宗教・信条、性別、性的指向に関する望まれない行為を行い、その行為が個人の尊厳を侵害する、または、個人にとって脅迫的、敵対的、侮辱的、屈辱的もしくは攻撃的な環境を創出する目的または効果を持つ場合、ハラスメントとなると定めています。「セクシュアルハラスメント」とは、性的性質を持つ望まれない行為を行うこと、またはセクシュアルハラスメントを拒否あるいはこれに服従したことを理由とする、より不利益な取扱いを含みます。 一度限りの出来事でもハラスメントになり得ることに注意することが重要です。
従業員によるハラスメントについて、雇用主が責任を負う場合があるか?
はい、現行法の下でも、雇用主は従業員によるハラスメントについて責任を負う場合があります。 2010年平等法(Equity Act 201)は、従業員が業務上行った行為はその雇用主の行為としても取り扱われると定めています。つまり、雇用主が当該ハラスメントを知っていたかや承認していたかにかかわらず、雇用主はハラスメントに対して責任を負う(したがって、それについて訴えられる)可能性があるということです。ただし、雇用主が、従業員が差別的な行為を行うことを防止するために「すべての合理的な措置(all reasonable steps)」を講じたことを示すことができれば、抗弁となります。
Worker Protection (Amendment of Equity Act 2010) Actで何が変わるのか?
新法では、全ての雇用主に対して、従業員のセクシュアルハラスメントを防止するための「合理的な措置(reasonable steps)」を講じる積極的な義務が導入されます。 言い換えると、雇用主は、実際のセクシュアルハラスメントの申立てに対する抗弁としてこれらの措置を講じたことに依拠するだけでなく、予防措置を講じる積極的な義務が課されることになります。
雇用主がこの義務を守らなかった場合どうなるのか?
新法では、雇用主の義務は、平等人権委員会(Equity and Human Rights Commission(EHRC))によって取り締まられる可能性があります。 EHRCは、義務違反に関するunlawful act noticeを出し、雇用主に遵守を求めることができます。 また、職場のハラスメントに関するEHRCの新たなコード・オブ・プラクティスもやがて公表される予定です。
従業員は、セクシュアルハラスメント防止義務違反に関し、それのみで雇用審判所への申立てを行うことはできません。しかし、セクシュアルハラスメントの申立てにこれを含めることは可能です。 雇用主は、抗弁として、セクシュアルハラスメントを防止するために「合理的なステップ(reasonable steps)」を踏んでいたことを証明できれば、義務違反の責任を免れます。
従業員がセクシュアルハラスメントの申立てに成功し、審判所がセクシュアルハラスメント防止義務違反もあったと認定した場合はどうなるか?
この場合、審判所は、最大25%まで賠償額の増額を命じることができます。 差別の案件で認められる賠償額にはすでに制限がないため、この種の請求は雇用主にとってさらにコストのかかるものとなる可能性があります。
スタッフハンドブックに既にハラスメント防止ポリシーが記載されている場合、それで十分か?
確かに、全ての雇用主は、セクシュアルハラスメント、ハラスメントおよびいじめ防止、平等と多様性などに関して、良くドラフトされた効果的な社内ポリシーを持ち、それは毎年見直され、アップデートされるべきです。 しかし、以下で述べる理由から、単にポリシーと手続を文書化するだけでは十分とはいえません。
- ハラスメントがどのような形で起こりうるか、どのように顕在化するか、従業員として、関連する場合にはラインマネージャーとして、ハラスメントを防止するためにどのような責任を負っているかについて、全てのスタッフがトレーニングを受ける必要があります。
- 雇用主が、いつ、誰に対してトレーニングが実施されたかを証明できるよう、正確なトレーニングの記録を維持する必要があります。
- 従業員が、ハラスメントの申立てを誰にどのような形でレポートできるのかを知ることができるよう、明確なレポート体制が整っている必要があります。
- 法的な申立てが成功するリスクを低減させるため、グリーバンスを受領したり、調査したりする可能性のあるすべてのシニアマネージャーが、そのような申立ての取扱い方や、徹底的で公平な調査の実施方法に関する特別なトレーニングを受けることを強くお勧めします。
セクシュアルハラスメントの申立てによる、複雑で高額かつ時間のかかる訴訟を回避したい全ての雇用主は、この新たな予防義務に真剣に取り組まなければなりません。 モラルや生産性に影響を与えるだけでなく、このような申立てによる風評被害は甚大なものになりかねません。
3CSにできること
3CSの雇用法・HRチームは、差別に関する法のあらゆる側面、職場でのセクシュアルハラスメントを防止する方法、セクシュアルハラスメントに関する苦情が誤って処理されないようにするための方法に関する実践的なガイダンスについて、オーダーメイドのトレーニングを提供しています。
詳しくは3CSの担当者までお問合せください。