2023年は英国におけるM&A活動がそれほど活発ではない年でしたが、2024年の見通しはどうでしょうか?このニュースレターでは、現在の企業環境と明らかになりつつあるトレンドについて見ていきます。
市場全体の状況はどうですか?
2023年に直面した課題は2024年もおおむね継続しています。インフレは緩和されつつあるものの、価格設定や予測に影響を与える要因であることに変わりはありません。地政学的な緊張は一部の海外バイヤーがより慎重なアプローチを取る原因となり続けていますが、より国内的なM&A市場ではその影響は限定的です。英国を自己完結的な市場として見ている投資家が、ウクライナの戦争や米国の政権交代のリスクに対してそれほど懸念していないことは明らかです。
ロンドン証券取引所は、英国企業の上場先として自動的に選ばれているわけではありません。その主な理由は、米国資本市場で実現可能な高い企業価値評価にあります。しかし、企業価値評価が上がればリスクも高まり、最近のCazooの破綻や、米国に上場した英国企業の多くが当初の上場価格を大幅に上回る価格で(または当初の上場価格で)取引されていないことは、当初の高い企業価値評価が長期的な成長にとって必ずしも良いとは限らないことを示しています。
M&Aは上場企業の取引に限定されているのですか?
英国には、ロンドン証券取引所 (LSE) のメイン市場と、LSEのジュニア市場であるAIM (Alternative Investment Market) という二つの公開市場があります。これらの市場における企業活動は、一般的に、企業が初めて株式を上場して新株を提供するときの上場又はIPO(新規株式公開)、株式の追加発行、公開買付、および、非上場化への取引(多くの場合企業は売却後に上場廃止になる)を行います。
しかし、非公開のM&A取引は常に英国の活動の基本的な原動力で、上場企業に関するM&A取引よりもかなり多く、取引額は非常に大きいものから非常に小さいものまで様々です。非公開のM&A取引は上場していない企業に関するものですが、国際的な大企業である可能性があります。
非公開のM&A取引における買収価格はどのように構成されていますか?
非公開のM&Aの取引価格の大半は、価格調整メカニズムを含んでいます。最も一般的なものは、コンプリーション・アカウント (Completion Account) 方式とロックド・ボックス (Locked-box) 方式です。
コンプリーション・アカウント方式では、両当事者は取引完了時の対象企業の価値と思われる額に基づいて暫定的な買収価格に合意します。その後コンプリーション・アカウントが作成され、暫定価格の正確性を確認します。暫定価格が正しくない場合には、買収価格に調整が加えられます。多くの場合、各当事者が妥当と考える調整額を反映するために、買収価格はコンプリーション・アカウントの承認までの間保留されます。
一方、ロックド・ボックス方式とは、取引完了後の調整を行わず、最新の監査済み会計書類に基づいて最終買収価格について当事者が合意するものです。しかし買手は、最終決算日から取引日までの期間における価値の減少に対する補償を求めることで、合意価格に対する安心感を得ようとします。
アーンアウトとは?
M&A取引におけるアーンアウトは、買収価格調整のさらなる手段です。多くの場合これは対象企業のEBITDAに基づいて算出されます。EBITDAとは企業の収益性を表す指標で、利払い前、税引き前、減価償却前の利益を示します。
アーンアウトは多くの場合、対象企業の買収後のEBITDAに連動します。言い換えれば、一定のEBITDA目標が達成された場合、さらに買収金額が支払われることになります。アーンアウトは高成長企業において、売手は今後12又は24ヶ月の会社の状況を反映したより高い価格を望むが、買手は潜在的な将来価値に基づく価格の支払いに消極的な場合に、よく利用されます。
2021年国家安全保障・投資法 (National Security and Investment法 2021 (NSI法)) は変化をもたらしましたか?
NSI法は、国家安全保障を理由に幅広い取引を審査する権限を政府に与え、取引を阻止したり条件を課したりすることを可能にします。これは防衛や重要インフラなど、経済の17の主要分野に関連しています。2022年の施行以来、政府は英国における国家安全保障を確保するため、NSI法に基づき1,700件以上の通知を審査し、20件の最終命令を出しました。
NSI法の下では、通知された取引の93%が最初の30営業日の審査期間内に承認されていますが(英国政府の最新の年次報告書による)、ディールメーカーは現在、潜在的なNSI法のプロセスを初期段階で(特に国家安全保障上の懸念が予見される場合)常に考慮しなければなりません。
英国政府は最近、NSI法の影響に関するコンサルテーションを実施し、まもなくNSI法の適用に関するガイダンスが更新される見込みです。このガイダンスでは、規制が適用される取引の種類や、学術・研究分野での取引が取り上げられると思われます。また、規制の対象となる機微な分野 (sensitive sectors) についても、さらなるガイダンスが期待されます。
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