2024年7月17日における施政方針演説で、労働党の初期立法計画が発表されました。演説では、「搾取的な慣行の禁止と労働者の権利の強化のための立法」について簡単に触れられただけでしたが、本ニュースレターではその予想される内容をより詳しく見ていきます。
「働く人々のためのニューディール」
これは、労働党が野党時代に発表した雇用法政策です。労働党によれば、これは、「賃金を引き上げ、仕事をより安定させ、働く人々が成功するための支援を行う」ことにより、労働が報われるようにするための計画であり、これにより「真の生活賃金を実現し、搾取的な「ゼロ時間契約」を禁止し、「解雇と再雇用」を終わらせる」としています。
首相の施政方針演説に関するブリーフィングノートには、この政策の実施に関するいくつかの詳細が含まれています。
労働党は実際に何をするのか?
政府は「雇用権利法案」を提出する予定です。この法案には下記の内容が含まれると予想されています。
- 不公正解雇からの保護を、雇用開始初日から適用
現在、従業員が不公正解雇を主張するには2年間の勤務が必要なため、雇用開始初日からの保護の適用は大きな変化と言えます。以前の労働党政権時代でも、不公正解雇の主張には最低1年間の勤務が必要でした。労働党は、仕事の不安定さが人々の転職を抑制しているとしてこの政策を正当化する一方で、企業に対しては、この労働者保護は、試用期間に関する特別なルールの適用を受けるとして、安心させようとしています。雇用主側からは、長い勤続年数条件を維持するか、相応の期間解雇を可能にする柔軟な試用期間ルールを求めるロビー活動が予想されます。
- 「ゼロ時間契約」の禁止
これは全面的な禁止ではないかもしれません。労働党は、従業員が定期的に働く時間に応じた契約を結ぶ権利を確保したいとしており、雇用主が労働時間を設定し、従業員がそれに対して何の意見も言えない「一方的な」柔軟性を禁止しようとしています。
- 「解雇と再雇用」および「解雇と入れ替え」の終了
労働党は、雇用主が既存の契約を終了し、異なる条件で新たな契約を申し出ることで、契約内容を一方的に変更することを止めさせたいとしています。現在、こういった行為は解雇に該当し、対象の労働者が2年以上勤務している場合は不公正解雇を主張できますが、裁判例では、正当なビジネス上の理由があり、かつ、雇用主が労働者と協議を行っていれば、解雇は公正だったとされています。上記の改正がなされれば、ルールは厳格化される見込みで、安価な従業員に置き換えるために全従業員を解雇する企業には重い罰則が科されることになるでしょう。この背景には、2022年にP&O Ferries社が事前予告なく800人の従業員を解雇し、派遣労働者と置き換えたことへの批判があります。これらの分野については、法改正とともに、新たな法定規範が導入される予定です。
- 法定傷病手当(SSP)の低所得制限と待機期間の撤廃
現在、従業員は、法定傷病手当を受給するには、傷病の発生から4日目まで待たねばならず、また、週に最低123ポンドを稼いでいる必要があり、これらの条件は不公正と見られています。他方、手当の額を現在の116.75ポンドから大幅に引き上げる意向は発表されていません。
- 雇用開始初日からの柔軟な働き方を全従業員の標準とし、雇用主には、合理的である限り、これに応じることをを義務付けること
柔軟な働き方を要求する権利は既に雇用開始初日からの権利として認められており、これにどのような変更が加えられるかは現時点では不明です。また、標準とするということの意味も現時点で明確ではありません。しかしながら、柔軟な働き方の要求を受け入れることの積極的義務付けにより、企業が労働者の要望を拒否することはこれまでより難しくなると見込まれます。
- 出産した女性の復職後6ヶ月間の解雇の禁止
これは、出産前後の女性に対する保護をさらに強化し、女性の労働市場への参加を促進することを目的としています。ただし、今後出産する母親が完全に解雇から免れるわけではなく、例外規定が重要になります。
- 育児休暇の権利を勤務開始初日より認めること
労働組合については?
労働党は労働組合運動から生まれたため、保守党に比べて労働組合をより好意的に扱うと予想されます。前政権下でのストライキに関する制限の法律を、全てではないと見込まれますが、撤廃する予定です。少なくとも、争議行為に関し、ストライキ中でも最低限のサービスの提供を義務付ける法令は撤廃される見込みです。また、労働組合の法定承認取得手続は簡素化され、労働者の職場内での労働組合へのアクセス権も新たに導入される予定です。
その他の変更点
職場での権利を執行するための新たな機関(Fair Work Agency)が設立されます。
また、労働党は、引上げ額は未定ながら、国民生活賃金(National Living Wage)を引き上げて「真の生活賃金」とするとともに、23歳未満に支払われる最低賃金額を23歳以上と同額にするとしています。
それに加え、障害者や民族的マイノリティに平等賃金法への完全な権利を保障する、人種及び障害に関する平等法案が起草され、民族及び障害による賃金格差の報告が義務付けられる予定です。これらの変更は大きな実務上の困難を伴い、政府がどのように対応するかが注目されます。
法案はいつ提出されるのか?
労働党は、100日以内に法案を提出すると約束しており、11月前の提出が見込まれます。その後、議会を通過し、さらに、法改正がが発効されるまでには時間がかかり、発効は2025年4月になる可能性があります。
これらの法改正が貴社にとってどのような意味を持つかについてのアドバイスが必要な場合は、いつでもご相談ください。また、成立時期を含め、法案の詳細が判明次第、改めてニュースレターを発行する予定です。
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