従業員や元従業員から法的請求を受けることは非常にストレスの多いものです。特に雇用審判の実務と手続きは民事裁判とは異なり、独自の規則と指針で規制されているため、適切なガイダンスなく複雑な雇用審判手続きを進めると、そのストレスに拍車をかけることになりかねません。ここでは、審判の初期段階に関わる重要な文書と回避すべき一般的な落とし穴についてご紹介します。
1. ET1とは何か?
申し立て人(すなわち従業員または元従業員)が雇用審判所に法的請求を提出するには、「ET1」という特定のフォームに記入する必要があります。ET1フォームは雇用審判所のウェブサイトで入手可能で、申し立て人は、雇用主の名前や連絡先情報、雇用期間、給与の情報、雇用関係が終了したかどうか、および申し立て内容などの基本的な情報の詳細をET1フォームに記載する必要があります。ET1フォームが使用されない場合、審判所によって請求は拒否されるでしょう。
2. ET3とは何か?
ET3は申し立てに対する雇用主からの回答であり、こちらも審判所のウェブサイトから入手可能な特定のフォームに記入する必要があります。雇用審判手続きにおいて、雇用主は「被告」と呼ばれます。ET3は、申し立てが受け入れられるか否か、およびその理由を説明するものです。
3. 雇用主は自身でET3を完成させることができるか?
法的請求が見込まれる場合、可能な限り早く弁護士に依頼することを強くお勧めします。不満を持っている従業員による紛争手続きが開始される前、例えば、ACASの調停手続き中のタイミング、あるいはそれよりも前に依頼することが理想的です。
その理由は以下の通りです。
- 雇用に関する法的請求についての弁護は時間も高額な費用もかかるもので、早期段階で紛争を解決できればこの負担を回避できます。
- ET3が堅固で正確であり、すべての申し立てに適切に対処していることが非常に重要です。強力な抗弁によって、申し立て人が自身のケースの弱点や雇用主が自身の主張に強く反証できることを認識すれば、早期解決につながる可能性があります。
- 申し立て(またはその一部)に合理的な成功見込みがない場合その理由、または雇用審判所の管轄外の申し立てが含まれている場合はその点を主張すべきです。それによって、審判員は申し立てを却下することを検討できるようになります。
4. 文書作成時に注意すべき落とし穴は?
- (申し立て内容の)自認 – 慎重に検討したうえで、敢えて行うものでない限り、申し立て内容を自認しないことは非常に重要です。もしET3で誤って申し立て内容を認めてしまった場合、後からそれを取り消すことはほぼ不可能です。
- 締切の順守 - 被告がET3を期限内に提出しなかった場合、申し立てに対する反論の妨げとなり、審判員は被告が棄権したものとして判断を下すかもしれません。提出期限の延長を求めることも可能ですが、それが認められる保証はありません。
- 期限日の再確認 – (従業員や元従業員が)法的請求を行うには、非常に厳格な期限日が存在します。期限内に申し立てを行うことは申し立て人の責任ですが、被告は自身に対する申し立てが期限内のものか常に確認すべきです。複数の申し立てがある場合、各期限日を確認、計算する必要があります。期限日の後に申し立てがなされた場合、申し立ての却下を審判所に申請する非常に良い理由となります。後になってその申し立てが審判所に受け入れられるべきではなかったと気付いても、申し立て却下の申請が遅延したことが被告である雇用主にとって不利に働く可能性があります。
5. 取締役が元従業員から訴訟を起こされる可能性はあるか?
はい、申し立て人は会社の従業員や役員である個人に対して申し立てを提起することができます。例えば、内部告発による不利益や解雇に関する申し立て、差別を主張する申し立てが想定されます。
6. 雇用主が従業員を反訴することは可能か?
可能ですが、限られた状況においてのみです。なぜならば、雇用主が元従業員に対する契約違反の訴えを独立して雇用審判に提起することはできないためです。雇用主は、申し立て人が自身に対して契約に関する申し立てを起こした場合にのみ、反訴することができます。例えば、申し立て人による未払いの予告期間手当の主張に対して、雇用主が研修費用の返済を求める場合がこれにあたります。
3CSにできること
訴訟には時間も高額な費用も、非常に大きなストレスもかかります。文書を適切に作成し、できる限り強固な抗弁と証拠を提示することは、手続きを自信を持って進める助けとなります。3CSには、複雑な雇用に関する法的請求に対する弁護についてクライアントを弁護する豊富な専門知識があります。詳細については担当者へお問合せください。