政府は先週、就任後100日以内に雇用権利法案を提出するという公約を果たし、900万人の労働者に就労初日からさらなる権利を与えることとなりました。しかし、新たな展開として、ほとんどの変更が少なくとも2年間は実施されないようです。これは英国企業にとって何を意味するのでしょうか?
なぜこのようなことが起きているのか?
労働者の利益を促進するために100年以上前に設立された労働党は、2024年の選挙公約で雇用権の強化を約束しました。同党は、従業員に有利な28の改革を盛り込んだこの法案を、「雇用権利に関するこの世代最大のアップグレード」と呼んでいます。
不公正解雇法に関する約束とは?
この改革は最大の目玉であり、発表直前まで、企業や労働組合による激しいロビー活動が行われてきました。伝統的に、労働党政権は訴えを起こせるまでの資格期間を短縮し、保守党政権は延長してきました。 今回、労働党は「初日からの権利付与」を大胆に約束したため、裁判なしに採用ミスを修正できなくなることを恐れた企業は混乱に陥りました。
実際に何が起こるのか?
しかし、政府は企業の声に耳を傾けた形となり、「従業員の職務への適性を適切に評価することを可能にし、従業員には初日から権利があることを安心させる」ために、新規採用者の法定試用期間を9ヶ月とすることについての協議が行われることになりました。これまではこの期間が6ヶ月になるであろうと報道されていました。
柔軟な働き方の強化
これがもう一つの大きな変更点となると予想されていました。従業員からの柔軟な働き方を認める要求を拒否する場合、雇用主は、8つの通常の理由のうち1つを示すとともに、柔軟な働き方が合理的でないことを示さなければならなくなり、また、拒否が合理的である理由も示さなければならなくなります。
しかし、違反した場合の罰則(8週間分の賃金)には変更はありません。これはおそらく、期待されていたほど画期的なものではないでしょう。
ゼロ時間契約への圧力
政府は、「搾取的な」ゼロ時間契約を禁止すると約束しました。実際には、決められた期間にわたって定期的に働くことにより、保証時間契約を結ぶ権利が与えられます。この改革には、勤務シフトの合理的な通知と、急なシフトの取り消しに対する支払いを受ける権利が含まれます。
解雇と再雇用の制限
今回発表された「解雇と再雇用の禁止」の内容は、表題どおりではなく、契約変更を拒否したことを理由とする解雇を自動的に不当解雇とすることで、雇用主が、従業員を解雇すると同時に異なる条件での再雇用を提案することを制限するものです。ただし、事業を脅かすような深刻な財務上の問題を回避するため真に必要な場合には、ごく限られた例外が設けられ、まず当事者間での協議が必要となります。
傷病手当
予想されていたとおり、法定傷病手当は病気欠勤の初日から支払われることになり、3日間の待機期間が廃止されます。現在の支給額は週116.75ポンドであり、通常の年次の引き上げ以上の引き上げは予定されていません。
父親産休と育児休暇に関する変更
現在、従業員は、父親産休と育児休暇を取得するには26週間勤務している必要があるところ、雇用初日から取得可能になります。
第三者によるハラスメントの全責任を導入
重大かつ予期せぬ展開として、雇用過程における第三者からのハラスメントに対する雇用主の責任が発生します。
新たな機関(Fair Work Agency)
新しい権利に違反した雇用主に対して罰金を科す権限を持つ、新しい執行機関「Fair Work Agency」が創設されます。これはおそらく多くの人が考えている以上に重要になるでしょう。
妊産婦の権利を強化
妊娠中、産休中、復職後6カ月以内の解雇からの保護を含め、妊娠中の女性や復職したばかりの母親に対する保護が強化されます。
国民生活賃金の改定
労働党は、労働を報われるものとするために、国民生活賃金の大幅な引き上げを約束しました。実際には、生活費が考慮されて設定され、年齢には関係なく1つのバンドが設定されるでしょう。
労働組合法
この法案は、最低サービス水準(ストライキ)法(Minimum Service Levels (Strikes) Act)を含む、前政権によって制定された反組合法を廃止するものです。
不足しているものとは?
その他にもいくつかの変更が予想されていましたが、政府は将来的に実施することを検討しています。 協議次第ではありますが、これには「スイッチを切る権利」(例外的な状況を除き、従業員が時間外に連絡を受けることを防ぐ)や、雇用形態をより単純な2つの枠組みへ移行することに伴う労働者カテゴリーの統一などが含まれます。
労働組合の受け止めは?
労働組合内では、この法案が十分に前進しているかどうかで意見が分かれています。イギリス労働組合会議(TUC)のポール・ノワック書記長は、「14年間も生活水準が低迷した後......この法案は、何百万人もの権利と保護を向上させるという政府のコミットメントを浮き彫りにしている」と述べました。
しかし、ユナイト(Unite)のシャロン・グラハム書記長は、「この法案は、約束されたことを回避しようとして、いまだに自らを縛り付けている。解雇と再雇用、ゼロ時間契約をきっぱりと終わらせなければ、法案は穴だらけのものとなり、敵対的な雇用主はきっとそれを利用するだろう。」と述べています。
新ルールはいつ施行されるのか?
遅くとも2026年10月と噂されていますが、法案に関する憶測は過去にも間違っていたため、これは信用できないでしょう。
裁判請求への影響は?
請求件数が増えることで、過負荷状態にある裁判システムに更に負担がかかることが懸念されます。これにより、雇用裁判請求が増加し、同時に審判が下りるのがより遅くなる事態になるでしょう。
経済への影響は?
見方によって異なります。一方では、10人以上の従業員を抱える英国企業の5社に1社が人手不足を訴えており、政府は、権利と雇用の安定を高めることが人々の再就職を促し、政府の成長課題を後押しすると主張しています。ジョン・レイノルズビジネス貿易相は、彼らの計画である「親ビジネス、親労働者のアプローチが、雇用主が成長するために必要な柔軟性を与える一方で、不当で不公正な慣行を終わらせる」と述べました。一方、中小企業団体(Federation of Small Businesses)は、この新しい権利は「雇用裁判に直面することを恐れて、小規模雇用主が新規雇用を躊躇することは避けられない」と警告しています。