コロナ渦以降の社会の変化は、英国やその他地域の経済および不動産市場の回復の規模とスピードに影響を与え続けています。勤務体制の柔軟性や顧客のニーズの変化に伴い、高品質でありながら適応性の高い商業用不動産が求められています。
金融政策は不動産市場に影響を与えたか?
金融政策は不動産市場に影響を与えます。金利の上昇は、投資家の流動性資産に対する投資の動きを加速させています。同時に、金利はインフレ率よりも低いままであるため、不動産の借入コストは実質的な影響を受けていません。したがって、インフレと連動した長期的な実物資産の成長の可能性と、金利の上昇によって金融市場で得ることができる流動性資産の短期的なリターンの間には緊張関係があります。
インフレがピークに達したかどうかはまだわかりませんが、インフレがピークに達すると、まだ楽観視はできないものの、商業用不動産の市場活動は全体的に活性化し、安値であることに便乗した買収の機会がこの市場の特徴となる可能性が高くなります。
ロンドンのオフィス市場にはどのような傾向が見られるか?
実例として、ロンドンのカナリーワーフにあるHSBCがシティ・オブ・ロンドンの小規模オフィススペースを求めてカナリーワーフからの撤退を決定しました。この110万平方フィートの規模の建物は、エネルギー効率の規則を満たすために大幅な改修工事が必要でした。また報道によると、カナリーワーフにあるMoody's Corp. はCushman & Wakefield plcを起用して、現拠点よりも3分の1ほど小さい新オフィスの選択肢に関するアドバイスを彼らに求めたようでした。さらに、カナリーワーフのカナダスクエア20番地(20 Canada Square)は、1億2000万ポンドと見積もられる大幅な改修工事の必要性を抱えて、管財人の手に渡ったとも報じられました。
賃貸の利率(利回り)は確保できるのか?
建物が大きくなればなるほど、建物の近代化のコストは上昇します。建物購入者は建物のアップグレードにかかるコストを賃貸利率(利回り)と照らし合わせて慎重に検討し、将来の賃貸利率(利回り)を明確化するために、アップグレードに着手する前にテナントとの契約を締結することを検討する必要があります。市場が変動する中でこれを実現することには時間がかかる可能性があり、これらのことを資金調達においても検討材料にしておく必要があります。
ロンドンのオフィス市場はどのように進化しているのか?
銀行やその他の優良テナントは、パンデミックからのリセットの一環として、オフィスへの出勤をより望ましいものにしようとしており、店舗やレストランに近い小規模な一等地にオフィスを選ぼうとしています。
シティ・オブ・ロンドンは従来オフィススペースに力を入れてきましたが、最近ではレストランを増やし、古い建物をホテルに建て替えることを目指しています。
昨年Blackstone Asset Managementは、ロンドンのウエストエンドから数キロのメイフェアにおいて、バークレースクエアの新規開発物件について、建設工事が開始されてもいない時点で、物件全体の賃貸借契約を結びました。
英国の工業用不動産市場にはどのような傾向が見られるか?
国際的な輸送、物流、製造業者は、フリーポートゾーンのような税制の優遇措置のある工業用地への関心を高めています。北部のハルから中部のイースト・ミッドランズ、南部のテムズ・ゲートウェイなどの英国各地の工業用地は、国際的な貿易に多くのメリットを提供しています。フリーポートゾーンのテナント投資家は、商品がフリーポートを出発するまで、輸入関税の支払いを延期することができます。また、フリーポート内で部品の組み立てを行い、完成された商品に対してのみ関税を支払うことも可能です。これは、部品が輸入される際に、組み立てられた商品よりも高い関税が課される可能性がある場合に有益です。さらに、このような立地による税制の優遇措置には、対象となる土地や建物に対する印紙税の100%軽減措置や、事業税率に関する、取引終了日から5年間の100%の軽減措置(2026年9月末までに入居した場合)が含まれています。
保税倉庫にはどのような利点があるか?
特定のフリーポート・ゾーンとは別に、税制の優遇措置のある産業の場合は、保税倉庫を検討することもできます。保税倉庫とフリーポートの違いは、保税倉庫に保管されている商品が合法的に受入国の税関領域内にあるのに対し、フリーポートに保管されている商品は税関領域外にあるという点です。保税倉庫の場合、商品は販売または移動されるまで、付加価値税と関税の支払いを猶予されます。これにより、キャッシュフローを改善することができます。商品が輸出される場合には、英国における関税の支払義務はなく、仕向国で関税が支払われるため、二重課税を避けることができます。輸入品の場合は、輸入時の貨物全体にではなく、商品の需要に応じて、実際に市場に供給される商品に対してのみ関税を支払った上で販売できるという利点があります。
国際企業が他の工業用地に関心を示しているのか?
フリーポートの工業用地と保税倉庫は、商品の梱包や出荷に携わる生産者のサプライチェーン需要のためにサービスを提供する英国全土の一般的な流通センター(倉庫)とは区別することができます。ブレグジット(Brexit)後、この市場は国内外の消費財ブランドの活動によってますます活性化しています。過去12か月の間に、サウス・イースト、ウェスト・ミッドランズ、イースト・ミッドランズにおける卸売や消費者製品の保管・流通に対する海外事業者からの需要が高まっていることがわかります。このような事業者は、十分な保管スペースと効率的な顧客への商品発送を可能にするために、商品陳列設備、冷凍フロア、梱包設備を備えた一等地に建てられた施設を探し求めています。
英国の小売り不動産市場にはどのような傾向が見られるか?
食品小売業(レストラン、店舗、卸売業)向けの商業施設に対する海外事業者の需要は、引き続き伸びており、持続可能な要素を持つ高級小売商品の販売用商業施設への関心と需要が高まっていることが見てとれます。多くの国際的なブランドは、英国市場での買収意欲を今もなお持っており、都市の商業中心部での複合商業スペース(オフィス、住宅、小売店舗の開発)に焦点を当てた現在の都市計画トレンドに関心を寄せています。
英国のレジャー向け不動産市場にはどのような傾向が見られるか?
インフレによる価格上昇の圧力と労働力不足の影響は、パンデミック後の英国のホテルや娯楽施設部門に影響を与え続けています。これによりロンドンエリアのホテルの売却や買収という形で市場の合理化が進んでいます。しかしながら、ロンドンはポンド安と観光客の増加により引き続き恩恵を受けるものと思われます。ホテルの経営者は、投資や借り換え(リファイナンス)の際に最も費用対効果の高い資金調達方法を検討しており、当事務所はこうした取引について法的サポートを提供しています。当面の市場変動に耐えうる十分な資産評価ヘッドルームを確保できるようなローン・トゥ・バリュー・レシオ(融資比率)を満たすべく、ポートフォリオを組み替えることが必要になるかもしれません。
将来の展望は?
英国の不動産セクターは現在、技術革新、持続可能な開発、そして多様化を取り入れ、将来に向けて堅固で適応性のある産業を促進しようとしています。一般的な傾向として、都市計画は公共サービスとともに住宅、小売、レジャー、オフィスを組み合わせた複合施設へとシフトしています。それと同時に、パンデミック後のサプライチェーンの適合と構造的な経済的影響により、パンデミック前の「ジャスト・イン・タイム」モデルに代わって「ジャスト・イン・ケース」供給モデルを促進する産業用倉庫部門の成長が促されています。
3CSにできること
商業用・住宅用不動産に関する法的なご質問やご相談は、担当者宛にお問合せください。