2024年7月の国王演説では、新政府の初年度における優先事項が示され、その中で、予算責任、雇用権、監査改革、そしてグリーンエネルギーに関する法案が発表されました。本ニュースレターでは、企業への主な影響をいくつかご紹介いたします。
グレート・ブリティッシュ・エナジー法案(Great British energy bill)
グリーンエネルギーに関する新たな法案により、国有のエネルギー会社、「グレート・ブリティッシュ・エナジー(以下、GBE)」の設立が予定されています。政府は、再生可能エネルギーやクリーン電力プロジェクトに投資するGBEへの出資金として83億ポンドを調達することを目指しています。
政府は、GBEが「民間セクターと協力して投資を行いながら、資産を築き、所有し、管理する」ことを目指すと述べています。GBEの投資対象には、エネルギー企業との共同投資やジョイントベンチャーへの参画が含まれます。
資金が調達され次第、まずは33億ポンドを労働党が提唱するローカル・パワー・プランに投資し、地方自治体のエネルギー計画を支援するとともに、地域主導の再生可能エネルギー供給団体に対して低利の融資を提供する予定です。残りの50億ポンドは、GBEが「クリーンエネルギーの生産、配電、貯蔵、供給、化石燃料から生成されるエネルギーの温室効果ガス排出削減といった、クリーンエネルギーへの移行の促進とエネルギー効率の改善のための措置」に参加するための資金となります。
このように多額の出資が約束されていることは、上記の分野でエネルギー関連業界における今後の経済成長が期待されることを示唆しています。
企業統治と監査要件
「監査改革及び企業統治法案(The Audit Reform and Corporate Governance Bill)」では、新しい規制機関である「監査・報告・統治局(Audit, Reporting and Governance Authority)」を設立し、金融報告審議会(Financial Reporting Council)と置き換えることを予定しています。
この法案は、監査の品質と権威を強化することを目的としています。質の低い財務報告に対しては、より厳しい対応がなされ、不備があった場合は役員に対しても処分を下す権限が与えられる予定です。
雇用権法案
提出が見込まれる「雇用権法案」、 「(人種及び障害に関する)平等法案」、及び「スキルズ・イングランド法案」は、全て労働党の「労働者のための新しい取り決め(New Deal for Working People)」に基づいた政策の実施を目的としています。
「雇用権法案」には以下の内容が含まれると予想されます。
- 「搾取的な」ゼロ時間契約の廃止
- 「解雇・再雇用(fire and rehire)」又は「解雇・置き換え(fire and replace)」の禁止
- 現在、2年間の就労を要件とする不当解雇や育児休暇からの保護等の権利の、就労初日からの付与
- 全労働者に対する一律の法定病欠手当の権利の付与
- 全労働者への雇用初日から柔軟な働き方を求める権利の付与
- 出産後の女性の復職から6か月間の解雇禁止
政府は、2024年10月12日までにこの「雇用権法案」を提出する意向を示しています。法案が議会を通過するには時間がかかると見られ、また、新しい法律の一部を実施するためには、二次的な立法手続が必要になる可能性が高いと見込まれます。
さらに、政府は、以下の事項を実施すると予想されています。
- 雇用問題に関する執行機関としてのFair Work Agencyの創設
- 労働組合の運営を容易にする措置
- 職場における労働組合へのアクセスの拡大
製品安全及び計量法案
新たな「製品安全及び計量法案(Product Safety and Metrology Bill)」は、英国が、EUの新しい又は更新された製品規制を承認することを可能にするとともに、EUの製品規制を承認しないという選択をすることも可能にすることを目的としています。
EUは製品安全規則の改革を進めており、この新しい英国法案は、英国の法律をEUの規則変更に合わせることを目指していますが、他方で、利点があると判断されれば、一部の規則をその対象から除外することも可能としています。
また、この法案は、コンプライアンス及び法執行、サプライチェーンの責任、並びに、リチウムイオン電池のようなリスクを伴う製品についても規定する予定です。
サイバーセキュリティ及びレジリエンス法案
新しいサイバーセキュリティ法案は、重要インフラやデジタルサービスをより安全にすることを目指しています。
この新法案は、現行の「2018年 改正ネットワーク及び情報システム(NIS)規則」の適用対象を拡大し、より多くのデジタルサービスやサプライチェーンが規制の対象となる予定です。
また、ランサムウェア攻撃やその他のサイバー事案が生じた組織に対する報告義務が強化される予定です。
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