TUPE(事業譲渡(雇用保護)規則(Transfer of Undertaking (Protection of Employment_ Regulations)は、従業員の雇用が移転される際、その権利を保護するための複雑な規則です。
TUPEは、事業譲渡およびサービス提供者の変更(外部委託や業務委託先の変更)に適用されます。今回取り上げる事例はサービス提供者の変更に関するため、関係する企業を「旧サービス提供者」と「新サービス提供者」として説明しますが、基本的な原則は事業の売却・買収にも適用されます。
TUPEの概要
改めて整理すると、TUPEの適用条件が満たされる場合、従業員の雇用契約は自動的に事業譲渡先や新サービス提供者に移転されます。勤続2年以上の従業員が新サービス提供者に雇用されなかった場合や、事業譲渡に関する理由で解雇された場合、新サービス提供者に対して自動的に不当解雇を主張することができます(ただし、通常の整理解雇と同様に、事業譲渡後に公平に解雇されることはありえます)。
この自動移転の原則の唯一の例外は、従業員が移転に異議を唱えた場合です。この場合、その従業員の雇用契約は新サービス提供者に移転せず、旧サービス提供者に対して解雇に関する権利も持たないことになります。しかし、この例外にも例外が存在します。この点については、London United Buswaysの判例を紹介する前に簡単に説明する必要があります。
基本的なルールとして、たとえ従業員が同意していても、新サービス提供者は従業員に不利益となる契約条件の変更を行ってはならないとされています。しかし、新サービス提供者の事業所が異なる場所にあることもしばしばあり、それが雇用条件の変更に該当することがあります。この点について、TUPEは、勤務地の変更について、雇用主と従業員の合意があれば可能としています。
しかし、それで問題が解決するわけではありません。移転後、全く異なる場所で勤務を求められることになれば、通勤時間が大幅に長くなったり、子どもの学校送迎など生活面で支障が出る可能性があります。TUPE上、これは契約違反よりも広い概念である「実質的な不利益をもたらす就労条件の重大な変更(substantial change to working conditions to the material detriment)」に該当します。これは、事業譲渡に関連するものであれば自動的に不当とみなされるため、勤務地変更が契約条件の変更に該当するかにかかわらず、従業員は退職してその時点の雇用主に対し不当解雇を主張できるという点で重要な意味を持ちます。
このようなTUPEの効果は、最近の雇用審判控訴審の判決でも確認されました。
判例: London United Busways v De Marchi and Abellio Londonn
この事件では、ロンドン交通局(Transport for London)が、London United Busways Ltd.(以下London United)が運営していたバス運行契約の再入札を行い、新たにAbellio London Ltd.(以下Abellio)が契約を獲得しました。De Marchi氏はLondon Unitedに雇用されていたバス運転手で、27番ルートのバスを、自宅から徒歩15分の距離にある車庫から運転していました。しかし、AbellioはこのルートをDe Marchi氏の自宅から1時間以上離れた車庫から運行すると発表しました。これを受け、De Marchi氏はAbellioへの雇用の移転を拒否し、London Unitedに任意の整理解雇を申し出ましたが、受け入れられませんでした。London Unitedは対応を二転三転させ、最初は「自主退職」とし、その後「契約はAbellioに移転された」としました。
一方、AbellioはDe Marchi氏が移転に異議を唱えたため、雇用契約は移転されなかったと主張し、De Marchi氏も同意しました。
雇用審判控訴審は、De Marchi氏が異議を唱えたことから雇用は移転されなかったこと、及び、将来的な不利益を伴う重大な変更を予期して移転に異議を唱えたことを認定しました。これにより、彼の解雇に関する権利は回復しましたが、それは、De Marchi氏により長距離の通勤を求めたAbellioに対してではなく、15分の距離の場所に車庫を持つ、不運にもライバル会社に契約を奪われたLondon Unitedに対してでした。
雇用主への影響
この判決は、大筋では長年のTUPE法解釈に沿ったものではありますが、TUPEの思わぬ影響を改めて明確に示す結果となりました。
事業譲渡の場合、売主と買主は、取引のリスクを軽減するための補償条項を交渉することで、従業員が異議を唱えたり請求を起こすリスクに対処することが可能です。
しかし、サービス提供者の変更においては、リスクへの対処はより困難です。London United Buswaysの判例が示しているのは、旧サービス提供者が、何ら落ち度なくライバル企業に契約を奪われた場合であっても、従業員が雇用の移転に異議を唱えれば、そのライバル企業が労働者に不利な変更を導入しようとすることにより、旧サービス提供者が不当解雇で法廷に訴えられる可能性があるということです。こういった状況において、現実的に取り得る選択肢は和解による解決を試みることしかありません。
TUPEリスクの管理
TUPEは、事業譲渡を実施しようとする企業や、他者にサービス提供を行っている企業に対して、大きなリスクと義務を課します。雇用主は、法的リスク、業務の混乱、潜在的な責任を最小限に抑えるために、これらの義務を慎重に管理すべきです。
3CSにできること
3CSでは、経験豊富な雇用法チームが、TUPE関連のコンプライアンスおよび事業再編における法的サポートを提供しています。
貴社の円滑な移行とリスク管理を、専門的な知見で支援いたします。