2025年雇用権利法(Employment Rights Act 2025)は、英国政府の「Make Work Pay」プログラムを実現するための大規模な改革法です。本法は、2026年および2027年に段階的に導入される一連の措置を通じて、既存の英国の雇用法体系(特に、1996年雇用権利法(Employment Rights Act 1996)およびその関連法)を改正・補完するものです。
雇用主は、今回の改革の広範な内容を正確に理解し、自社の従業員や業務運用が本改革に確実に対応できるよう、適時かつ積極的に準備を進めることが不可欠です。以下では、主要な変更点およびその影響を整理します。
2025年雇用権利法の主な変更点
1.雇用初日からの法定傷病手当、父親の育児休暇、育児休暇の権利付与
法定傷病手当(Statutory Sick Pay (SSP))、父親の育児休暇、育児休暇の権利が、雇用初日から付与されます。
また、法定傷病手当支給のための下限所得要件が撤廃され、低賃金、パートタイム、ゼロ時間契約(zero-hour contract)の労働者も法定傷病手当の対象となります。
雇用主は、スタッフハンドブックおよび給与システムの更新が必要です。
この変更は2026年4月6日に施行されます。
2.不公正解雇(unfair dismissal)申立ての資格期間が6か月に短縮
政府は、「雇用初日からの不公正解雇保護」導入の方針を撤回しました。代わりに、2027年1月1日以降、6か月の勤続期間があれば不公正解雇の保護を得られることになります。この変更は雇用主に大きな影響を与える見込みで、不公正解雇に関する申立件数の増加が予想されています。
雇用主は、資格期間変更後に、不公正解雇の保護を得る従業員を把握し、継続雇用に関する判断を早めに行う必要があります。例えば、不適任などを理由に解雇を検討する場合、雇用の早期段階で対応しなければなりません。最近採用した社員に関して問題が生じた場合に、迅速に対応できるよう、オンボーディング手続、契約上の試用期間、パフォーマンス管理のプロセスとポリシーを見直す必要があります。
3.補償額の上限
通常の不公正解雇の補償金に対する法定上限が撤廃されます。
この上限の撤廃により、雇用主は期待値の管理が難しくなり、特に給与の高い従業員に関して和解金が増加する可能性があります。
施行日は未確定ですが、2027年1月1日と予想されています。
4.雇用審判所(Employment Tribunal)への申立
2026年10月から、多くの雇用審判所への申立ての期限が、基準日(例えば、解雇の有効日)から6か月と、現行の3か月から延長されます。申立人からすれば、助言取得や申立てのための準備期間が延長されるため、申立件数の増加が予測されます。雇用主は、紛争の長期化を避けるため、訴訟のリスクが見込まれる場面で早期の紛争解決に一層注力することが求められます。
5.セクシャルハラスメント防止のための「あらゆる合理的な措置」を講じる義務
2026年10月から、雇用主はセクシャルハラスメントを防止するために「あらゆる合理的な措置(all reasonable steps)」を講じる義務を負います。これを怠った場合、雇用主はハラスメント(顧客や取引先などの個人である第三者によるハラスメントも含む)の法的責任を負うことになります。特に従業員が取引先、サプライヤー、顧客、一般市民などと対面接触する場面(ビジネスや社交イベントを含む)では、この点を考慮する必要があります。
雇用主は、セクシャルハラスメント関連のポリシーの見直し・更新、および全従業員への研修実施などにより、防止への取組姿勢を明確に示す必要があります。さらに、2027年10月には「あらゆる合理的な措置」の具体的内容を明確化する追加の規制が設けられる予定です。それまでは、雇用主は平等人権委員会によるセクシャルハラスメントに関するガイダンスとベストプラクティスを指針とすることが求められます。
2026年4月6日から、セクシャルハラスメントが発生した、発生している、または発生する可能性が高い旨の情報提供が、内部告発(whistleblowing)の要件に該当するようになり、労働者に追加の保護が与えられます。
6.「解雇と再雇用(fire and rehire)」または「解雇と入れ替え(fire and replace)」の制限
2026年10月から、給与、休暇取得権、勤務シフト、労働時間などの重要な契約条件変更に合意しない従業員を解雇し、当該従業員の再雇用または他の者を代替採用することを意図する場合は、雇用主が深刻な財務危機で代替策がないことを証明しない限り、自動的不公正解雇(automatic unfair dismissal)になります。
この措置は、当初想定されていた解雇と再雇用の完全な禁止には至らないものの、新たな自動的不公正解雇の権利により、従業員の保護が大幅に強化されます。
7.集団余剰人員整理に関する権利の強化
2026年4月6日以降、集団余剰人員整理における協議義務違反に対する最高賠償額は、賃金の90日分から180日分と倍増されます。
2027年からは、同一事業所において20人以上の整理解雇が提案される場合、または複数の事業所にまたがって異なる基準を満たす場合に、集団協議が義務付けられます。詳細な規定は今後、規則で定められます。
8.ゼロ時間契約者への新たな権利
2027年、従業員は基準期間中に通常勤務する時間を定めた契約を要求できるようになります。勤務シフトについては合理的な事前通知を受ける権利が発生し、キャンセルまたは直前の変更通知に対しては、手当を受ける権利が付与されます。雇用主は排他的な契約を要求できず、労働者が他で働くことを妨げることはできなくなります。
その他の変更点:
- 雇用主がチップポリシーを策定または改定する際、労働者と協議することを義務付けることにより、チップポリシーに関する現行法の強化を図ります。
- フレキシブル勤務の申請を拒否する場合、雇用主がその理由を説明することを義務付けます。申請を拒否する決定は「合理的」であることに加え、8つの特定の事業上の理由のいずれかに基づくものでなければならなくなります。
- 新たな執行機関「公正労働機関(Fair Work Agency)」を設置し、全国最低賃金、休暇手当、法定傷病手当を含む各種雇用権利の執行を担当します。
3CSにできること
3CSの雇用法に精通した弁護士は、企業が新たな法体系に対応できるよう、雇用契約書、ポリシー、手続の見直しや改訂、スタッフ向け研修の実施を支援します。また、改革の実施に伴い、試用期間やパフォーマンス管理体制が適切かつ目的に適していることを確実なものにし、訴訟リスクを軽減するため、管理職や人事部に対して実務的な助言も提供します。
新しい規則に関するアドバイスやガイダンスをご希望の場合は、ぜひ3CSまでお問合せください。




