英国高等法院は、DKH Retail Ltd & Ors v City Football Group Ltd [2024] (EWHC 3231 (Ch))事件に おいて、被告(マンチェスター・シティ・フットボールクラブ(MCFC)の運営会社)の異議にもかかわらず、原告Superdry社の請求に関し、当事者に調停への参加を命じました。この決定は、 英国裁判所における新たな訴訟管理規則の重要性を示すものと言えます。
この決定は、裁判所が新しい民事訴訟規則(CPR)に基づく訴訟管理権限を行使し、当事者に裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution, ADR)の実施を命じた初の報告事例となりました。本件では調停が採用されましたが、その他のADRの形式には、仲裁、専門家の決定、そして中立的評価が含まれます。
2024年10月1日にこの新しいCPRが発効する前は、裁判所は、不合理にADRを拒否する当事者に対してADRへの参加を命じることまでは認められていないと解されていました。しかしながら、この見解は2023年11月にはゆらぎ始めており、Churchill v Merthyr Tidfyl Borough Council事件で、控訴裁判所長官であるジェフリー・ヴォス卿は以下のように説明しています。
「…裁判所は、以下の条件を満たす場合、適法に訴訟手続を停止し、当事者に裁判外での紛争解決手続に応じるよう命じることができる。(a)原告の公正な裁判を受ける権利を損なわないこと、(b)合法的な目的を追求するものであること、(c)その合法的な目的を達成するために均衡がとれていること。」(太字による強調は弊所が設定したものです。)
2024年10月1日に発効したCPR改正により、この長官の分析がCPRに組み込まれました。いくつかの関連規定が設けられた中で、CPR 3.1(o)は裁判所が、「(o) 当事者に対して裁判外紛争解決手続に応じるよう命じること」を認めています。
本ニュースレターでは、この事例と、今後の紛争解決における裁判所の事件管理への影響について探ります。
Superdry社のMCFC運営会社に対する請求
世界的な衣料チェーンのSuperdry社は2023年に法的手続を開始しました。同社は、MCFCの練習着に記載された「SUPER 'DRY' Asahi 0.0%」という文言(日系の飲料会社であるAsahi UKとのスポンサー契約の一環として記載されたもの)が、Superdry社の登録商標「SUPERDRY」を侵害しており、また、商標侵害訴訟で頻繁に主張される出所混同惹起による不法行為にも該当すると主張しました。
Superdry社は、このブランド名が自社の衣料品カテゴリーでの登録商標と類似しており、消費者の混同を招く可能性があると主張しました。この主張は英国の商標侵害の法的要件を充足するものであり、また、混同は、出所混同惹起による不法行為の立証においても重要な要素です。この点について、被告は商標侵害を否定し、最初は正式審理前の調停には応じない意向を示しました。
なぜ裁判所は調停を命じたのか?
Superdry社は、裁判所に対し、被告に調停に応じるよう命じる決定を求めました。正式審理前審問において、マイルズ判事は、正式審理期日が目前に迫っていること、また、もし調停を通じた和解により解決する現実的な見込みがあるのであれば、事前に当事者間で行われた和解協議で本件は解決されていたはずであるという被告の主張にある程度理解を示しました。
しかし、続けて、判事は、本件では、正式審理に向けて十分な主張が尽くされており、双方の法的立場が定まっていないことが解決の妨げになる可能性がある、初期段階での調停とは異なることを指摘しました。また、経験上、一見解決困難に見える場合でも、調停手続を経ることにより、和解に至ることが少なくないこと、調停では、裁判所が課すことのできない、商業取引やその他の合意といった紛争解決方法を選択することもできることを付け加えました。その後、裁判所は、当事者の意見を検討した上で、当事者に調停への参加を命じました。
この事件が調停に付されたことによる影響
正式審理前審問の決定文の追記によると、調停によりSuperdryの請求が解決されたことを認めています。和解の詳細は公表されていませんが、この結果は、調停が正式審理を経ることなく紛争を効果的に解決する方法であることを示しています。
この決定が将来の裁判に与える影響
この決定は以下の点を示唆しています。
- 英国裁判所は、状況が適切であると判断した場合、訴訟管理の一環として調停を命じることになる
- ほとんどの事案において、当事者はもはや調停に反対し続ける立場にはない
- 従来、一部の当事者は、譲歩を拒むことで自らの立場が強化されると考えて調停を避けていたが、Superdry社の訴訟は、そのような戦略が今後容易に裏目に出る可能性があることを示唆している
英国裁判所は、今後も調停を強制するか?
調停がすべての紛争に適しているわけではないかもしれませんが、この判決は、Churchill v Merthyr Tidfyl事件における控訴裁判所の分析と相まって、英国の裁判所は、状況が許す限り、新たに与えられた権限を積極的に行使し、ADRを命じることが見込まれます。また、ある事案において、ADRを命じることができる状況である、という判断を下すことにも、同様に積極的と見込まれます。
3CSにできること
3CSでは、あらゆる種類の商業的紛争に関するサポートを行っています。
経験豊富な紛争解決チームが、お客様と共に最善の結果を追求します。お気軽にお問合せください。