6月16日、英国政府は「公平な民間賃貸住宅セクター白書(ホワイトペーパー)」を発表し、「民間賃貸住宅セクターの過去30年間で最大の改革の一環として、数百万世帯が良質で手入れの行き届いた住宅に住むことができるようにする」と主張しています。
このホワイトペーパーは、民間賃貸住宅セクターにおいて存在する賃貸人(230万人)と賃借人(440万人)の間の数の不均衡を是正することを目指しています。
ホワイトペーパーの主なポイントとは?
- (ホワイトペーパー上の施策は)2022年後半に導入される「賃貸住宅リフォーム料金法案」の一部を構成します。
- Housing Act 1988のsection 21 noticeに基づくno-fault evictionつまり無過失退去請求(=賃借人に過失がなくとも賃貸人が立ち退きを要求できる)を禁止し、公営賃貸住宅セクターに従来から適用されていた「適切な住宅基準(Decent Homes Standard)」を民間賃貸住宅セクターにも適用拡大することを予定しています。
- 恣意的な家賃見直し条項を廃止し、賃借人に悪質な慣行や不当な家賃値上げに異議を唱えることができるよう強力な権限を与え、質の悪い住宅について支払った家賃を返還請求することも可能となります。
- 賃貸人やエージェントが、子供のいる家庭や生活保護世帯への賃貸を全面的に拒否することは違法となります。
- すべての賃借人にペット飼育許可を要求する権利を与え、この要求を受けた賃貸人はそれについて検討しなければならず、不合理に拒絶することはできないとすることで、賃貸住宅におけるペット飼育がより容易になります。
その他の施策は?
- 賃借人と賃貸人の間の紛争を迅速に、低コストで、裁判によらずに解決できるよう、民間賃貸オンブズマンが創設される予定です。
- デジタル不動産ポータルサイトが導入され、賃貸人がその責任を理解し、遵守するための情報や、カウンシルや賃借人が不正な事業者に対抗するために必要となる情報が、集約的に提供されるようになります。
- すべての賃貸借契約は、periodic tenancy (自動更新付き定期賃貸借契約=契約終了日の定めがなく、一定の期間で自動更新される契約)に移行する予定です。つまり、賃借人は悪質な住宅から(長期間の残余)家賃の支払い義務を負うことなく退去したり、状況の変化に応じて引越しをすることが、より容易となります。賃借人は2ヶ月前通知により賃貸借契約を終了させることができるようになりますが、賃貸人は、法律で定められた正当な占有回復理由を提示しなければならなくなります。
- 家賃の値上げに関する通知期間が2倍に延長され、不当な値上げに対して異議を申し立てる賃借人の権利が強化されます。
- カウンシルには、極めて悪質な違反者に対処するため、強制的な措置と重大違反に対する罰金増額に裏打ちされた、より強力な権限が与えられます。
Section 21の禁止が投資家にとって重大である理由
投資用不動産を購入し、それを貸し出す場合、将来的に賃借人を退去させる必要が生じたときのために、立退きのプロセスと選択肢を熟知しておく必要があります。しかし、ホワイトペーパーでは、既存のルールに大きな変更を加えることが提案されています。
賃貸人が特に理由なく賃貸借契約を終了させることが可能な、Section 21に基づくいわゆる無過失退去請求は禁止されます。賃貸借契約は、賃借人が終了させるか、賃貸人が正当な理由を有する場合にのみ終了することになり、賃借人は悪質な慣習に異議を唱えることができるようになり、予想外の引越し費用が節約できます。
投資家である賃貸人の多くは、Section 21が廃止されると、賃貸人が同物件へ入居したり、同物件を売却する際に、物件の占有を取り戻すことが極めて困難になると主張しています。賃貸人は、著しい家賃滞納や反社会的行為などの違反行為がある場合でも、(Housing Act 1988の)Section 8に基づく占有回復命令ではなく、(Section 21に基づく)無過失立退請求を選択することが多いのですが、これは、Section 8に基づくプロセスが物件を取り戻すには複雑で時間がかかりすぎると考えるからです。
短期保証賃貸借契約(Assured Shorthold Tenancy, “AST”)付きの物件はどうなりますか?
購入希望の物件に、Housing Act 1988に基づく保証期間付き賃貸借契約を結んだ賃借人が住んでおり、期間満了時に新たな契約の終期が合意されない場合、賃借人は法律上、自動更新付き短期保証賃貸借契約(AST)に基いてその物件に居住し続けることになります。
政府は、すべての賃貸借契約を統一的に自動更新定期賃貸借契約に移行させることを計画しています。
多くの場合、自動更新付き短期保証賃貸借契約(AST)は、賃貸人がSection 21に基づく通知を出すことによって終了させることができます。しかし、新法が施行されると、賃貸人はこの方法が使えなくなります。実質的には、賃借人が賃貸借契約を終了させると決めた場合にのみ賃貸借契約が終了することになる一方、賃貸人としては正当な理由がなければ契約を終了させることができなくなります。
注:賃貸人による物件の占有回復を制約するこの提案は、(物件そのものの)流動性に影響を与えると同時に、金融機関が投資対象物件の流動性を融資の条件とする場合、資金調達にも影響を与える可能性があります。投資家は、この規制が施行された場合、既存の融資契約上のコベナンツ違反とならないよう確認する必要があります。
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