イングランドとウェールズにおける商業用賃貸借契約の多くには、「1954年土地所有者及び賃借人法(Landlord and Tenant Act 1954, LTA1954)」に基づく保有期間の保証(Security of Tenure)が認められています。これは、契約期間満了後も、Section 25 notice又はSection 26 noticeにより正式な終了手続が取られるまで、賃貸借契約が継続することを意味します。
本ニュースレターでは、これらの通知の仕組み、違い、そして賃貸人・賃借人双方が把握しておくべき近時の法制度の動向について解説します。
保有期間の保証 (security of tenure) とは
LTA 1954の下では、ほとんどの商業用不動産の賃借人に対し、リース契約更新の権利が認められています。賃貸人が更新を拒否するには、建物の再開発予定や自己使用の意向など、法定の反対事由に基づく必要があります。
賃貸人と賃借人のいずれも行動を起こさなければ、契約期間満了後も、既存の条件のままリース契約が継続されます。賃貸借契約を正式に終了または更新するためには、以下に示すいずれかの正式な通知が必要です。
Section 25 notice(賃貸人による通知)とは?
Section 25 noticeは、賃貸人が契約を終了させるために発する通知です。通知の中で、新たな契約条件の提案をすることも、リース契約更新に反対することも可能です。
この通知は、契約満了日以降に効力が生じるもので、リース期間終了の12か月前から6か月前までの間に賃借人に通知がなされる必要があります。賃貸人が更新に反対する場合は、正当な反対事由を通知内に明示する必要があります。
賃借人が契約の継続を希望する場合は、提示された条件に合意するか、契約終了日前に裁判所に申請する必要があります。
Section 26 notice(賃借人による通知)とは?
一方で、Section 26 noticeは、賃借人が新たな契約を希望する際に発する通知です。これは、賃貸人がまだSection 25 noticeを出していない場合に限り使用できます。
通知は、新たなリース契約の開始日として提案した日の12か月前から6か月前までの間に送達する必要があり、新しいリース契約の条件案を含めなければなりません。通知を受け取った賃貸人は、更新に反対する場合、2か月以内にカウンター通知を出さなければなりません。カウンター通知が出されなかった場合、原則として賃借人にはリース契約更新の権利が認められます。
Section 25 noticeとSection 26 noticeの主な違い
Section 25 noticeは賃貸人から発せられるもので、新しいリース契約の提案、又は契約更新への反対のいずれかを目的としています。Section 26 noticeは、新たな契約の締結を求めて賃借人から発せられるものです。Section 26 noticeを受領した賃貸人が更新に反対する場合は、2か月以内にカウンター通知を出す必要があります。
最初に発せられた通知が、その後の手続きの流れを決定します。Section 25 noticeでは賃貸人が条件を提案し、Section 26 noticeでは賃借人が提案します。同時に両方の通知が有効となることはありません。
Section 25 notice とSection 26 noticeの効果的な活用法
賃貸人にとって、Section 25 noticeは更新時期を管理し、契約の自動継続を防ぐための手段となります。再開発や自己使用といった正当な理由があれば、新たな条件を提案したり、更新に反対することも可能です。ただし、特に再開発を理由とする場合、裁判所は明確な証拠の提出を求めます。
賃借人にとって、Section 26 noticeは賃貸人の動きを先取りし、自ら望むリース契約条件を提案できる有効な手段ですが、適時の対応が重要です。賃貸人がカウンター通知を出し、賃借人が裁判所への申請期限を逃すと、更新の権利を失う可能性があります。
双方にとって、戦略的な対応が求められます。通知や申請の期限の見落としや証拠の不備は、自身の立場を不利にする可能性があります。
近時の判例と動向
2024年の重要判例であるSainsbury’s Supermarkets Ltd v Medley Assets Ltdにおいて、賃貸人が更新に反対する際、再開発を理由とする場合には確固たる証拠の提示が必要であると確認されました。裁判所は、曖昧な計画や推測に基づく主張では不十分であると判示しました。
2025年のSpirit Pub Company v Pridewell Propertiesにおいても、賃貸人の主張が退けられました。この事件では、賃貸人には真正な意図があったものの、裁判所は、資金調達や工事実施能力に関する証明が不足しているとして、賃借人にリース契約の更新を認めました。
一方、2025年の最新判例であるMVL Properties (2017) Limited v The Leadmill Limitedにおいては、賃借人が当該物件での営業を通じて相当な営業上の信用を築いてきたことを示したにもかかわらず、賃貸人が自らの事業目的で物件を使用すると言う明確で確定的かつ現実的な意図を示すことにより、物件の明渡請求が認められました。
また現在、法制委員会においてLTA 1954の見直しが進行中です。現時点ではまだ変更は確定していませんが、更新手続に変更が生じる可能性があり、賃貸人・賃借人双方において今後の動向を注視することが重要です。
3CSにできること
Section 25 notice及びSection 26 noticeには、厳格なルールと期限が定められているため、慎重な対応が不可欠です。通知の送達または回答について、実務的なアドバイスやサポートをご希望の場合は、3CSの商業用不動産法弁護士チームまでお気軽にお問合せください。