英国の労働者が7月19日に職場に復帰するのに合わせたかのように、パンデミック関連の申し立てに対する雇用審判所での最初の判決が出始めています。一時自宅待機(Furlough)制度(こちらは英国の雇用法では初めて)をはじめとして、様々な新しい問題が浮上しており、給与、休日、勤務地をめぐる紛争もすでに発生しています。興味深い問題の一つは、あまり知られていないルール(この場合Covid-19に感染する、感染させるなどの恐怖など)を利用して、従業員が安全上の理由で職場を離れることができるかどうかです。この問題に関する最初の判例が、Rodgers v. Leeds Laser Cutting Limitedです。
職場が安全でない場合、従業員は何ができるのでしょうか?
もし「重大または差し迫った」危険がある場合、従業員は職場を離れたり、戻ることを拒否したり、自分自身や他の人を守るための手段を講じることが可能です。このような理由で従業員が解雇された場合、それは自動的に不公正解雇となり、請求するために2年間の最低勤続期間を必要としません。(1996年雇用権利法第100条(section 100 of the Employment Rights Act 1996))
職場は実際に危険でなければならないのでしょうか?
いいえ、しかし、従業員は、危険が深刻かつ差し迫っていると合理的に信じる必要があります。 つまり従業員が信念を持ち、その信念が客観的に合理的なものでなければなりません。また、その危険は、従業員自らが軽減または回避することを合理的に期待できないものでなければなりません。
ではそれがどのようにCovid-19と関係するのでしょうか?
Covid-19のパンデミックは、法律上、危険とみなされます。 もちろん、現在のところ、集団ワクチン接種プログラムによって、危険性は著しく弱まっています。 しかし、パンデミックが始まった当初は、社会的距離と衛生対策しか手段がありませんでした。致死性のウイルスであっても、子供たちへの影響は非常に軽いということが初期の段階で明らかでしたが、ウイルスの出現以来、多くのことを学んできたことを忘れてはならなりません。
どのような訴訟案件だったのでしょうか?
ロジャース氏がLeeds Laser Cutting Limited社に解雇されたのは、一番最初のロックダウンが始まって間もない2020年3月下旬のことでした。 ロジャース氏は、レーザーオペレーターとしての仕事をするために、物理的に職場に通わなければなりませんでした。彼は大規模な倉庫で働いており、社会的距離を保つことが出来ていたにも関わらず、上司へのテキストメッセージで述べた通り、ウイルスに感染して2人の子供(うち1人は鎌状赤血球貧血)にうつしてしまう危険性があった為、欠勤することにしたのです。彼は、「ウイルスが落ち着くまで」家にいるつもりだと言い、NHSから自己隔離の文書を入手しました。 しかしながら、その期間に誰かを病院に連れて行くのを止めたり、自宅待機を希望しながらもパブで仕事をすることを妨げませんでした。
審理の結果はどのようなものだったのでしょうか?
雇用審判所は、原告が真っ当な懸念を持っていたにも関わらず、職場内の危険について確信を持っていたのではなく、危険は全ての身の回りにあると考えていたとしました。 彼は経営陣に特定の懸念を提起していませんでした。 また、彼の職場は規模が大きいが、労働者数は少なく、ウイルスを避けるためには社会的距離を保つ事が一つの方法であることは明らで、彼は危険を回避するためにそれを行うことが可能でした。 雇用審判所は、彼が深刻で差し迫った危険について合理的な確信を持っていなかったこと、彼が職場を離れることは適切ではなかったことから、彼の解雇は公正であると結論づけました。
このケースの意味するところは何でしょうか?
この判決は他の審判を拘束するものではありませんが、同様の事実に直面した場合に審判が取り得るアプローチを示しています 。しかし、ロジャース氏が職場を離れてから、背景となる状況は大きく変わりました。 集団ワクチン接種より、ウイルスが再び急速に広がっているにも関わらず、一般的な健康と安全への懸念は和らいでいます。そして、重要なことは、英国では7月19日から、職場に対する政府の安全衛生指導が大幅に緩和される予定であることです。これにより、職場を離れたり、自宅勤務の末に戻ることを拒否したりする人は、重大かつ差し迫った危険があるという「合理的な確信」を持っていない可能性が高くなります。 とはいえ、健康リスクや安全性に関するガイダンスを無視する職場があれば、従業員は職場から離れても解雇されない可能性があります。
従業員の職場復帰を管理する上で支援が必要な場合、あるいは従業員が健康と安全に関する懸念を抱いている場合は、弊所までご連絡ください。