2022年建築安全法(Building Safety Act 2022)(以下「本法」といいます)は、「よりリスクの高い建築物(higher-risk building)」とみなされるイングランドの住宅および複合用途開発(mixed-use development)に関するリスクのあり方を一変させました。デベロッパー、投資家、賃貸人、資金提供者および管理会社は現在、用地取得および設計から、入居、資産管理、処分に至るまで、建築安全に関するコンプライアンスを考慮する必要があります。広義には、「よりリスクの高い建築物」とは、イングランドに所在し、高さが18メートル以上または7階建て以上で、かつ、少なくとも2戸の住居を含む建築物を指します。ただし、建物全体が病院、介護施設、厳重管理付居住施設、ホテルもしくは軍の兵舎として使用されている場合、または英国国防省(Ministry of Defence)が軍人に提供する居住施設が建物内に含まれている場合は、この限りではありません。
本法は、主に2つの段階で適用されます。設計および建設段階では、「よりリスクの高い建築物」は、ゲートウェイ要件や、入居前に建築安全性規制当局(Building Safety Regulator)による承認を得る必要性など、より厳格な建築規制上の承認制度の対象となります。入居後の段階においては、管理責任者(Accountable Person)および、該当する場合には主任管理責任者(Principal Accountable Person)が、建築安全上のリスクを評価および管理しなければなりません。
本法はまた、建築安全情報について「ゴールデンスレッド(golden thread)」を作成、維持し、建築物が設計・建設段階から入居段階へ移行する際に、当該情報を引き継ぐことを義務付けています。是正措置を必要とする問題が生じた場合、本法はデベロッパーが責任を負う出訴期間を延長し、重要な是正および執行の仕組みを導入しています。違反した場合、規制上の措置を受ける可能性があり、場合によっては刑事責任が生じます。
最新の動向
単一建設規制当局(Single Construction Regulator)
現在、建築安全、建設製品および一定の専門基準は、それぞれ異なる組織により規制されています。グレンフェル・タワー調査委員会(Grenfell Tower Inquiry)が示した勧告を受け、英国政府は、これらの機能を1つの規制当局の下に統合するため、単一建設規制当局(SCR)を設立する方針であり、2028年までに運用を開始する見込みです。
建設業界にどのような影響があるのでしょうか。
SCRには、以下の役割が期待されています:
- 監督および執行の強化
- 規制要件の明確化
- デベロッパー、請負業者、設計者およびコンサルタントに対し、その判断および行為についてより重い説明責任を負わせること
これにより、専門職としての過失や建設関連の請求が増加する可能性があります。その理由は以下の通りです:
- 規則が明確になることで、申立人が潜在的な違反を特定しやすくなる
- デジタル記録の改善により、誰がいつ判断を行ったかについて、より多くの証拠が得られる
- 行為および説明責任に対する監視の強化により、請求を提起できる根拠が拡大する可能性がある
一方で、申立が減少する可能性もあります。規則が理解しやすくなり、コンプライアンス対応がより簡明になれば、建設関係者によるミスが減少し、長期的には規制違反や紛争が減る可能性があります。
建築安全賦課金(Building Safety Levy)
建築安全賦課金は本法により導入され、2026年10月1日から支払義務が生じます。これは、一定の基準および免除要件に従い、多くの新築住宅、賃貸目的で開発した住宅スキーム(build-to-rent schemes)、高齢者向け住宅および学生専用住宅(purpose-built student accommodation (PBSA))に適用されます。デベロッパーから推定34億ポンドを徴収し、建築物の安全上の欠陥を是正するための費用に充てることを目的としています。
支払額は、以下の要素により異なります:
- 開発物件の所在地
- 開発済み用地(ブラウンフィールド (brownfield))または未開発用地(グリーンフィールド (greenfield))のいずれかに建設されるか
- 床面積により測定される開発規模
賦課金は、完成証明書(completion certificate)が発行される前に支払う必要があります。
デベロッパーは、特に建築規制上の申請が2026年10月1日の施行日に近い時期に提出される可能性がある場合、用地取得の入札価格、評価、資金調達モデルおよび開発スケジュールに賦課金を織り込むべきです。
火災時安全避難計画(Fire Safety Evacuation Plan)
2026年4月6日以降、地上から18メートル以上または7階建て以上の建築物、および高さが11メートルを超え、緊急時にすべての人が同時に建物から避難する方式(一斉避難方式 (simultaneous evacuation strategy))を採用する建築物では、支援を必要とする居住者を特定する避難計画を整備しなければなりません。
2025年火災安全(住宅避難計画)(イングランド)規則(Fire Safety (Residential Evacuation Plans) (England) Regulations 2025)は、身体障害、移動上の問題または認知機能障害により、支援なしでは避難が困難な居住者を対象としています。「責任者(responsible person)」(通常は建物所有者、賃貸人、管理会社またはこれらに類する者)は、支援を必要とする居住者を特定し、個別のリスク評価を受ける機会を提供したうえで、火災時に居住者が安全に避難するために役立つ実務的措置を定めた緊急時避難指示書(Emergency Evacuation Statement)について合意する必要があります。
個別の計画に加え、建物管理者は建物の緊急時避難計画の策定(Building Emergency Evacuation Plan (BEEP))を作成しなければなりません。これは、避難手順を説明する建物全体の避難戦略であり、地域の消防・救助機関と共有し、定期的に更新する必要があります。
これらの要件は、純販売可能面積(net saleable area)、建築費、レイアウトおよび工程に影響する可能性があるため、設計、計画および事業採算性分析の早期段階で検討すべきです。
企業が今すぐ行うべきこと
本法は、固定的な法制度ではありません。二次立法、規制改革およびガイダンスを通じて引き続き発展しており、今後数年間にさらなる変更が見込まれています。SCR、建築安全賦課金および火災時安全計画(fire safety plan)の導入は、不動産・建設業界全体における説明責任、居住者の安全および規制上の監督強化を政府が引き続き重視していることを示しています。
デベロッパー、投資家、賃貸人、管理会社その他の関係者にとって、建築安全は現在、建物のライフサイクル全体を通じた重要な法務上、商業上および運用上の検討事項となっています。取得、設計および建設段階での判断は、完成後に重大な影響を及ぼし、資産価値、資金調達、入居、是正義務および潜在的責任に影響する可能性があります。
制度が複雑であることから、早期に法的助言を受けることで、リスクを特定し、コンプライアンスを確保し、高額な費用を伴う遅延や執行措置を回避することができます。新たな開発を計画している場合、既存のよりリスクの高い建築物を管理している場合、または是正に関する問題に対応している場合のいずれにおいても、3CSの不動産法チームが、本法の要件および最新の規制動向への対応をご案内します。
アドバイスおよびガイダンスをご希望の場合は、お気軽にお問合せください。




