グループ内組織再編は、事業の管理、運営、経済の効率化を図るために行われることが多いものです。しかし、理論上は簡単に見えても、実務上および法律上の重大な問題が生じることがあります。
なぜ組織再編を検討するのでしょうか?
企業グループは、様々な理由からグループ内組織再編の実施を決定します。グループ内組織再編が行われる典型的な状況は、以下のとおりです。
- 税務
一般的には、グループ構造を変更して、事業をより税効率の高いものにすることが目的となります。これは特に、税制が異なり、かつ変化し続けている様々な国に子会社を持つグループに関係します。
- 売却の準備
会社が事業の一部を売却しようとする場合、組織再編を利用して、売却する事業を別の子会社に分離することができます。これにより、グループが保持したい資産が意図せず売却されてしまうリスクを回避することができます。また、潜在的な買主にとって、より魅力的な対象となります。
- 買収の準備
グループが買収を計画している場合には、新たな子会社がグループに容易になじむことのできるよう、既存のグループ構造を再編成することができます。
- 買収後
新たな買収の資産は、買収後にグループ内の適切な子会社に移動させる場合があります。
株式 vs 資産
組織再編が事業の譲渡を伴う場合には、事業および資産を株式または資産の売却どちらの方法で譲渡するかを決定する必要があります。両者には、異なるメリットとデメリットがあります。
- 株式取得
これは、買主が、対象事業または資産を所有する会社の株式を取得する方法です。買主が知らないものも含め、すべての資産と負債を間接的に取得します。理論上、異なる資産の購入よりは手続きは複雑ではありませんが、柔軟性も低くなります。また、同意や承認を取得する必要も少なくなります。
- 資産購入
資産購入は、どの資産と負債を買主に譲渡し、売主が保持するかについて柔軟性が増すため、よりカスタマイズされた組織再編が可能になります。また、資産購入は、事業の一部だけを購入する場合にもより有効です。しかし、株式取得と異なり、資産の種類によって異なる譲渡の形式が必要となる場合があります。同様に、例えば、賃貸物件の譲渡時の家主の同意など、資産の種類によっては同意が必要な場合があります。
グループ内組織再編を行う際に考慮すべき重要事項
過小評価された取引
多くの場合、グループ内の資産譲渡は、名目上の価格で実行されます。しかし、これが市場価格よりを大幅に下回る場合には、これにより、取引が無効になるなど、望ましくない結果を招く可能性があります。また、その後破産した場合には、取締役が個人的な責任を負う可能性があります。
所有権と共有資産
グループ内では、企業が、他の企業が所有する資産を、正式な権利なく、気が付かないうちに使用している場合がよくあります。第三者への売却に向けて組織再編を行う場合、買主は、事業がそのような資産にアクセスするすべての権利を所有するか、少なくとも保持することを期待するでしょう。同様に、売却後、グループは、残ったすべての企業が運営に必要な資産に引き続きアクセスできることを確認したいと考えるでしょう。そのため、外部への売却を前提とした組織再編を行う際には、共有資産の所有権を特定し、適切な契約を締結することが重要です。
同意と通知
グループ内組織再編では、外部的な問題は少ないものの、規制当局、株主、銀行、家主、主要な供給者、顧客などの第三者から、特定の同意、承認、通知が必要な場合があります。
事業移転規則(TUPE)
事業譲渡の際に、従業員はTUPEで保護される場合があります。TUPEが適用される場合、売主は、従業員に通知してコンサルテーションを行い、買主に従業員の責任に関する情報を提供する必要があります。買主は、売主と従業員との間で結ばれた既存の雇用契約を守らなければなりません。
グループ内組織再編の文書化
グループ内組織再編の多くは、あまり詳細には文書化されずに実行されます。しかし、必要な法的文書はすべて準備され、適切に実行されていることを確認することは依然として重要です。取締役会議事録、関連承認、HMRCの同意と許可、責任からの解除、新しい銀行のセキュリティ文書など、基本的な付属文書が必要な場合があります。資産購入の場合、資産購入契約書に加えて、不動産譲渡、各種契約の譲渡や更改など、正式な譲渡文書の作成が必要な場合があります。株式取得の場合、株式取得契約書と株式譲渡書が必要です。いずれの場合にも、対価の構造に応じて、サブスクリプション契約、ローン契約書、権利放棄証書など、その他の文書が必要になることがあります。
グループ内組織再編を含め、企業再編が増えています。昨年の経済的困難を考慮して行われたものもあれば、平時に戻る準備として行われたものもあります。グループや企業の再編を検討されている方は、ぜひご連絡ください。