YouGovの最近の調査によると、国民の5分の1がCovid-19のワクチン接種をしたくないと回答しています。その理由は(他にも色々な反対理由がありますが)、ワクチン接種の安全性への不安や、一般的なワクチン接種への反対まで様々です。
英国で最も有名な雇用主の一つが最近、従業員が復職前にCovid-19のワクチン接種に反対することについて、「接種なし、仕事なし」というスローガンを発表しました。このアプローチは、理論的には簡単なようですが、雇用主が従業員に対して復職前のワクチン接種を義務付けられるかどうかは、雇用法の観点からは明らかではありません。
従業員にワクチン接種を要請することの合理性
1974年労働安全衛生法(HSWA)に基づき、雇用主は、合理的に実行可能な限り、全従業員の職場における健康、安全、福祉を確保する一般的な義務を負っています。
何が合理的かは、全ての労働力や職場にとって敏感な問題であり、特定の環境におけるCovid-19のリスクや影響に拠る 可能性が高いでしょう。例えば、介護施設では、ワクチンを接種していない労働者は、職場のより脆弱なスタッフや入居者に高いリスクをもたらします。効率的に在宅勤務が可能であることが明らかな、例えばプロフェッショナルサービスの ような分野においては、スタッフへのワクチン接種の指示について強い根拠がないことは間違いありません。
政府自身がまだどの分野でもワクチン接種を義務化していないことを考慮すると、現段階では、雇用主が、従業員の ワクチン接種拒否が安全衛生違反となる可能性があると言及することはリスクを伴うことでしょう。
ワクチン接種をめぐる差別的なリスクはありますか?
ワクチンを接種した者としていない者との間の待遇の違いは、間接的な差別となる可能性があります。間接的な差別は、 雇用主が、全員に同じように適用される方針(例えば、スタッフ全員がワクチンを接種しなければならない)を施行し、 それが保護特性をもつ人々に不利益となる場合に生じます。
Covid-19ワクチン接種関連で主張される可能性のある最も関連性の高い保護特性は、障害、性別、妊娠、および潜在的には宗教や信念の特性です。
これらの保護特性を順番に見ていきます。
- 障害 -健康上の理由でワクチンを接種しないように言われている方がいるかもしれません。障害のある従業員は、 ワクチンを受けられない場合があります。
- 妊娠または性別– 妊娠中、授乳中、妊娠を予定している人には、ワクチンは推奨されていません。
- 宗教または信念– この文脈における「信念」とは、「純粋に持っている哲学的信念で、説得力があり、真剣で、人間の生活や行動の重要な側面に当てはまるもの」を意味します。信念は、民主主義社会においては尊厳に値するものでなければならず、他の人々の基本的人権に影響してはなりません。信念が保護されるかどうかは、個々の状況に拠る可能性は高いものの、理論的にはこの類のものは保護される可能性があり、信念に背く行為を個人に要求することは差別になりえます。
雇用主は、ワクチンの接種を受けなかったことを理由に解雇できますか?
従業員が合理的な指示に従わなかった場合には、公正解雇につながる可能性があります(「その他の実質的な理由」である可能性が高いでしょう)。ワクチン接種を拒否した結果として従業員を解雇しようと考えている雇用主は、例えば、(特別な状況で不利益にならない限り)当該従業員を他の役割に再配置するなど、解雇の代替案がないか検討する必要があります。
これらの問題の事実上の性質を考慮すると、ワクチン接種を拒否する従業員に対して解雇などの不利益をもたらす何らかの行動に移す前に、法律上のアドバイスを求めるべきです。
新規採用者
英国における現在の法的枠組みの下では、1984年公衆衛生(疾病管理)法にて、個人がワクチン接種を含む医療措置を受けるよう要求することはできないと定められています。しかし、これは、雇用主が従業員に仕事を提供する前に、ワクチン接種を求める契約上の要件に同意を求めることを妨げるものではありません。このような状況における「同意」が、事実上、 自由意思に基づいて行われたものかどうかに留意する必要があります。自由意思に基づく同意ではないと感じられた場合 には、1984年公衆衛生(疾病管理)法が適用されることになります。
データ保護の問題は?
ワクチン接種の証拠を要求することは、データ保護上の重大な問題を引き起こします。雇用主は、なぜワクチン接種の証拠が必要なのか、自社の業務にとって適切かどうかを、慎重に検討しなければなりません。そのためには、データを要求する理由だけでなく、データがどのように安全に保管されるか、誰がそのデータにアクセスできるのか、データを保管することが適切かどうか、などの問題も考慮したデータ保護の影響評価が必要です。
復職
雇用主は、Covid-19ワクチンの有無にかかわらず、すべてのスタッフに安全な労働環境を提供する義務があります。この 義務に違反した場合には犯罪行為となります。雇用主は、従業員に復職を要請する前に、以下について検討する必要があります。
- ソーシャルディスタンス: 従業員間は常時2メートル間隔を保つことが可能ですか。もし不可能な場合、どのような解決策があるでしょうか。
- 勤務時間の調整: 職場内の従業員の密度を減らすため、雇用主は、シフトパターンの変更や、スタッフのチーム ローテーションを検討する方が良いでしょう。
- 衛生および感染症の伝播: 感染リスクを最小限に抑えるためには、どのようなシステムや方針が必要でしょうか。 これらの方針をどのように従業員に周知しますか。雇用主は、どのようにして従業員に方針を遵守させますか。
- 再導入: 従業員に対する復職支援制度は必須です。従業員は心身の健康状態が良くないまま復職する可能性があり ます。弱い立場にある従業員の復職をどのように支援しますか。
- 復職を拒否する従業員の管理: 雇用主は、従業員が復職を合理的に拒否しているのかどうか、および全従業員に復職を要請することに伴うリスクを見極める必要があります。
雇用主は、職場での仕事を再開する前に、従業員や会社施設への訪問者の安全を確保するため、Covid-19の方針、手順、 リスクアセスメントが十分か確認する必要があります。雇用主が安全な職場環境を提供していないと従業員が告発した 場合、政府のガイドラインに従っている証拠として、雇用主は明確かつ包括的な方針を保持していることが不可欠です。 また、雇用主は、従業員に安全な職場環境を提供するために、リスクアセスメントを実施し、実施可能な予防措置をとっていた証拠を書面で提供する必要があります。
- 会社施設のリスクアセスメントの実施、あるいは従業員向けの自宅の安全衛生アセスメントの準備
- 復職方針の策定
- 従業員の復職前のその他アドバイス
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