2023年に、英国雇用法の多岐の分野における大幅な改正が既に強く示唆されています。その動向は我々の方でも注視していますが、近い将来に起こりうる改正の中で、企業が注意すべき点を以下の通りご紹介します。
新生児休暇と手当に関する法案 (Neonatal Leave and Pay Bill)
2022年7月15日、新生児休暇と手当に関する法案 (the Neonatal Care (Leave and Pay) Bill) が英国政府の支持を得て下院に提出され、承認されました。現在上院の第二読会で審議中です。この法案がいつ成立し、施行されるかについては明らかになっていませんが、今年注目すべき法律です。
何が許可されるのか?
- この新しい法律により、新生児医療を必要とする新生児(生後28日以下)の親が、通常の出産休暇や父親産休に加えて、最大12週間の有給休暇を取得することが出来るようになります。この法律は、親が、他の休暇を利用したりすることなく、具合の良くない新生児と過ごす時間を増やせるようにするためのものです。
どのように機能するのか?
これは入社日からの従業員の権利になる予定です。早産や病気の新生児が、病院で新生児医療を受けていること、もしくは、同意した医療を受けていることが条件になります。新生児が生後28日まで入院し、少なくとも7日以上継続して入院している(または同意した医療を受けている)ことが必要になります。
従業員は、26週間の勤続の前提条件といった通常の規定を満たしていれば、法定休暇の権利が与えられます。
この法律は、雇用主にとって重要な法律であり、既に利用している標準的な雇用契約書に加えて、従業員が利用できる家族休暇の種類に関するポリシーをアップデートする必要があります。
フレキシブル勤務申請 (Flexible Working Requests)
職場のフレキシビリティを高める傾向が続く中、英国政府は「フレキシブル勤務のデフォルト化」を目指した最近のコンサルテーションペーパーにあるいくつかの提案を進めるつもりであることを認めました。
正確なスケジュールは決まっていませんが、フレキシブル勤務申請に関する以下の変更が近々予定されていることが強く示唆されています。
- 入社日からの権利 - 現在、従業員はフレキシブル勤務申請をするためには、26週間勤続しなければなりません。この条件が撤廃され、入社日からの権利となる予定です。
- 12か月に2回申請 - 現在の規則では従業員は12か月に1回しか申請をすることが出来ませんが、改正により2回申請が出来るようになる予定です。雇用主も、従業員から申請があった際は、現在の規定の3カ月以内ではなく、2カ月以内に対応をする必要が出る予定です。
- 代替案を協議する義務 - 雇用主は、従業員からの申請を単に拒否するのではなく、従業員と代替案を協議しなければならないといった新しい義務が導入される予定です。
- 8つの申請拒否理由 - 雇用主がフレキシブル勤務申請を合理的に拒否するための現行の8つの申請拒否理由に対する変更は提起されていません。
- 従業員は自身のフレキシブル勤務申請による影響について、雇用主がどのように対処すればよいかについて説明する必要はなくなる予定です。
維持されたEU法 (retained EU Law) の終了
維持された全てのEU法は、英国政府が英国法に取り込まない限り、2023年12月31日で失効します。英国政府は、英国に必要と考えられる法律だけを維持し、維持されたEU法の改正や代替のためのプロセスを簡易化したいと考えています。
雇用法にどのような影響があるか?
維持されたEU法のうちどれを失効させ、どれを維持し英国法に取り込むかを政府当局が検討しているため、今後の動向を見守る必要がありますが、EU由来の法律(議会制定法に含まれていないもの)は、政府が意図的に維持しない限り、失効法案によって消滅することになります。雇用法で影響を受ける可能性がある分野は以下の通りです。
- The Working Time Regulations
- Agency Worker Regulations
- Part-time Worker Regulations
- Fixed-Term Worker Regulations
- Transfer of Undertakings (Protection from Employment) Regulations (TUPE)
介護休暇 (Carers leave)
無給の介護者である従業員が、介護を目的として、または介護に関連して年に5日間の無給休暇を取得できるようにする新しい法律が導入されます。
これは雇用主にとってどのような意味を持つか?
無給の介護者は、勤続年数に関係なく、入社日からの権利としてこの休暇を取得することができるようになります。従って、従業員が取得可能な休暇について、ハンドブックやポリシーに追記する必要があります。
ACASの法定行動規範「解雇と再雇用 (‘Fire and Re-hire’)」
「解雇と再雇用 (‘Fire and Re-hire’)」の状況に関連する規範の草案が発表されました。昨年のP&O Ferriesによるこの制度を悪用した大量解雇事件を受けたものです。政府は現在このような解雇と再雇用の利用状況を規制しようとしています。
つまり今後雇用主は、従業員との雇用条件を変更しようとしたものの従業員との合意に至らず、対象の従業員を解雇して新しい条件で再雇用したいと考える場合、「解雇と再雇用 (‘Fire and Re-hire’)」に関するACASの新しい行動規範の草案を利用することが推奨されることになります。
これは雇用主にとってどのような意味を持つか?
今後、手続の公平性の審査に当たっては、この新しい行動規範が考慮されることになります。従って、雇用主は、どのようにすれば公正に「解雇と再雇用 (‘Fire and Re-hire’)」を行うことができるかを認識し、訴訟リスクを回避するために、この新しい行動規範をよく理解しておく必要があります。この規範は、法律ではなく、あくまでも手引きではありますが、雇用主がこの規範に従わなかった場合、雇用審判所は請求者に対する賠償金額を25%増額する可能性が高いとされています。また逆に、従業員がこの規範に従わなかった場合は、賠償金が25%減額される可能性があります。
臨時のバンクホリデー
今年は5月に国王チャールズ3世の戴冠式があるため、英国では5月8日(月)に臨時のバンクホリデーがあります。従って、バンクホリデーに休暇を取得する権利を持つ従業員は、この追加の臨時休暇を取得することができます。これは2023年のみです。
余剰人員解雇の保護の拡大
これも改正が提起されただけでまだ立法化されていませんが、政府が承認した法案の一部です。それゆえ、変更される可能性があると考えられます。
何が変更になるのか?
出産休暇中の余剰人員解雇の保護が、妊娠期間中と家族休暇明けの職場復帰直後から数か月間に拡大される予定です。この期間は6カ月となる見通しです。
これは実務上どのような意味を持つか?
保護の対象となるこれらの従業員も余剰人員解雇の対象になる可能性がありますが、他の従業員よりも優先的に保護されることになります。従って、雇用主はこの変更に注意をし、余剰人員解雇の状況の際に、妊娠や出産に関する差別をする可能性を残さないようにする必要があります。
各種手当のレートの引き上げ
労働年金省 (The Department for Work and Pensions) は2023年4月から適用される各種手当のレートの引き上げを発表しました。
法定出産休暇、父親出産休暇、養子休暇、共有育児休暇の手当は週£156.66から週£172.48に引き上げられます。
死別休暇の手当は週£156.66から週£172.48に引き上げられます。
法定疾病手当は週£99.35から週£109.40 に引き上げられます。
英国の全国最低賃金も以下の通り引き上げられる予定です。
- 23歳以上 ― £10.42 (従前 £9.50)
- 21歳-22歳 ― £10.18 (従前 £9.18)
- 18歳-20歳 ― £7.49 (従前 £6.83)
- 16歳-17歳 ― £5.28 (従前 £4.81)
- 実習生 ― £5.28 (従前 £4.81)
3CSにできること
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