2022年の終わりにむけて、今年行われた雇用審判所における主要な判例をいくつかご紹介し、2023年に向けての展望をお伝えします。

1.    整理解雇

White v HC-One Oval Ltd,において、雇用上訴審判所(EAT)は、任意的整理解雇を希望する従業員でも、雇用裁判所に不公正解雇の訴えを提起することが出来ることを認めました。

当該従業員は、自分が希望した整理解雇の状況は見せかけであり、自分が苦情申し立て(grievance) をしたために捏造されたものであると主張しました。雇用審判所は当初、従業員自身が整理解雇を希望していたため、訴えを認める合理的な理屈がないとして、訴えを棄却していました。

EATは、整理解雇を希望している従業員は辞職するわけではなく、単に人員整理による解雇に同意しているに過ぎないことを再確認しました。それゆえ、整理解雇を希望している従業員も、希望せずに整理解雇対象となった従業員と同様に、不公正解雇の訴えを提起する権利があるとし、審判所は整理解雇の手続きが公正だったかどうか検討することになりました。

この判決は実務的には何を意味するでしょうか。

この判決により、原則的に、雇用主は任意的整理解雇の要望を慎重に取り扱わなくてならず、従業員が自発的に希望した場合であっても、公正な手続きに則る必要があります。このような状況下で、訴えが認められる可能性が無いという主張をしても雇用審判所で認められる可能性は極めて低いため、公平性を証明する必要があります。

2.    みなし不公正解雇

Singh v Metroline Westにおいて、雇用主の行為が雇用契約の根本的な違反に相当するという判断に、雇用関係を終了することを意図したかどうかは関係ないということが、再認識されました。

雇用主のどのような行為が雇用契約の根本的な違反とみなされたのでしょうか?

雇用主は当該従業員の欠勤は懲戒手続きを避けるためのものであると疑い、会社の疾病手当の支払いを拒否しました。しかしながら、雇用主はその疑いを裏付けるための調査をしませんでした。

EATの判決は、雇用契約に対する根本的な違反が立証された場合は、雇用主が根本的な違反を意図したかどうか、あるいは、雇用主が契約違反をした理由は無関係であることを再確認させる有益なものでした。本判決で、疾病手当を支払わないことは契約の根本的な違反と見なされ、雇用主が支払いを拒否した理由が、当該従業員に社内の懲戒手続きに参加させるためであったという点は無関係であるとされました。

3.    昇進における年齢差別

R Sunderland v Superdry Plcにおいて、Superdry社にニットデザイナーとして雇用された50代のSunderland氏は、みなし不公正解雇と年齢差別を訴えました。

Sunderland氏は、彼女の高い成果は評価されずに、同僚のうち8名(うち7名は彼女より若い)は、彼女よりも上の「シニア(senior)」または「リード(lead)」デザイナーとして昇進、またはそのポジションで採用されていると訴えました。業績評価プロセスの中で、Superdry社は彼女を「“low flight risk”」と評価して(彼女が退職する可能性は低いと考えて)いましたが、仮に彼女が退職した場合は、ビジネスに与える影響は「中(“medium”)」だろうと考えていました。

審判所は、彼女が昇進しない理由に関して十分な説明をしなかったこと、さらに“flight risk”を評価することは年齢の高い従業員にとっては不利になる可能性が高いと判断しました。この業績評価の観点は、「マネージャーの推測」に過ぎません。この昇進基準には欠陥があり、定義が無く、不明瞭なものでした。その結果、判決によりSuperdry社の年齢差別が認められ、金銭的損失、基本賠償、精神的苦痛に対する賠償および利息としておよそ£96,209の賠償金が支払われました。

この判決は雇用主にとって何を意味するのでしょうか。

雇用主は、評価と昇進の決定に関して、明確で客観的な評価基準を採用するよう注意しなければなりません。従業員へのフィードバックは、改善策とともに、迅速かつ建設的に行うべきです。従業員から評価に対するクレームを受けた場合に備え、常に評価を裏付ける詳細な記録を残しておくようにしてください。

4.    フレキシブル勤務形態

英国の広告基準協議会(ASA)は「フレキシブル勤務形態」を提供すると記載された雇用主の求人広告に対する訴訟を支持しました。その広告には「柔軟なシフト勤務が可能(“Flexible Shift Patterns Available”)」「柔軟なシフト―平日の夜間勤務もしくは週末夜間のケアワークを探している場合、弊社はあなたに合った働き方を提供できます(“Flexible shifts – whether you’re looking for a couple of shifts a week in the Evening or Evening care work on the weekends, we can offer you shifts so you can work whenever it suits you”)」と記載されていました。ある応募者は介護アシスタントのポジションをオファーされましたが、後に、実際は自由にシフトを選ぶことが出来ないと言われました。応募者は広告に記載されたフレキシブル勤務への言及が誤解を招くものであったと訴え、ASAはそれに同意しました。

採用の場でのマーケティング・コミュニケーションにおいて、労働条件を偽って伝えてはいけないことに注意してください。求人広告は提供されるフレキシブル勤務形態を正確に反映することが重要で、雇用主は、その職種に対して記載された内容を提供できるように、使用する文言には十分に配慮をしなくてはなりません。

5.    ホリデーペイ 

Harpur Trust v Brazelにおいて、最高裁判所は、教師、ゼロ時間雇用契者など、1年の一部を無期限社員として働き、その合い間に休暇を取る労働者のホリデーペイの計算方法を検討しました。最高裁判所は年収の12.07%に基づくホリデーペイの計算方法は正しい方法ではないと判断しました。

最高裁判所は1年の一部を無期限社員として働く労働者の週給の計算方法は、無給の週を無視した、直近12週間の給与の平均を利用する方法が正しいと決定しました。2020年4月より、この期間が52週間に引き上げられました。

この決定は実務上どのような意味を持つのでしょうか。

この決定は、1年の一部を無期限社員として働く労働者のホリデーペイの計算方法について、本質的な変更を行うという非常に重要なものです。この判決から生じる問題点と実務上の影響について、今後のニュースレターでご紹介します。

本件に関する詳細な情報が必要な場合、3CSのいつもの担当者までお問い合わせください。

Jasmine Chadha

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