2022年9月23日、英国のクワジ・クワーテング(Kwasi Kwarteng)財務相は、「過去数世代で最大の減税パッケージを伴う新たな経済成長計画(Growth Plan)」である2022年経済成長計画(The Growth Plan 2022)政策を発表しました。
通称「ミニ・バジェット(mini-Budget)」は、国民と企業の双方にとって、生活費の上昇に対処することを目的としています。本記事にて、税制、設備投資、給与や雇用に関する変更など、企業にとって重要なポイントを説明します。
個人所得税の引き下げ
- 2023年4月から基礎税率が(20% から)19% に引き下げられました。
- イングランド、ウェールズ及び北アイルランドの基礎税率は、12,571ポンドから50,270ポンドの年間所得部分に適用されるものです。スコットランドの税率は異なります。
国民保険料の引き下げ
- 2022年11月6日より、最近引き上げられていた国民保険料が引き下げられます。これにより、国民保険料は2021・22年の水準(従業員にとっては所得の12%相当、雇用主にとっては従業員の所得の8%相当)に戻ります。
- 2022年4月以降、労働者及び雇用主は1ポンドあたり25ペンスの追加国民保険料を支払っていました。
- (もともと2022/23年度から導入される予定であった)NHS のコストを賄うための「新医療およびソーシャルケア税」(New Health and Social Care Levy)は導入されないことになりました。
法人税の引き上げ廃止
- 2023年4月に予定されていた英国法人税の19%から25%への引き上げが廃止されました。
- 2023年4月以降も、利益に関係なく現行の19%の税率がすべての企業に適用されます。
銀行員のボーナス制限の廃止
- 銀行員のボーナスを制限する規制が廃止されました。
IR35(off-payroll working)の改革廃止
- 2023年4月よりoff-payroll状況の判定に関する規制(IR35(非雇用的役務提供課税制度))が簡素化されます。
- 今回の措置は、「ビジネスにとって不必要な複雑さを避ける」ためのものであり、IR35(に対してなされた過去)の改革が廃止されます。(2023年4月からは)対象となる労働者自身が、IR35の適否を判断することになります。IR35は存続するものの、その施行方法が変更されることになります。
投資関連措置
- 企業が非課税で投資できる上限である特別即時償却枠(Annual Investment Allowance(AIA))は、無期限で100万ポンドに据え置かれます。
- 特別即時償却枠は減価償却の一種で、企業が特定の工場や機械に投資した費用を税額から相殺することができます。
- 特別即時償却枠は、標準的な減価償却、通常償却プール及び特別償却プールに加えて利用可能です。
- 年金基金が英国での投資を拡大できるよう、規制が変更されます。
- 新規企業やスタートアップ企業は、シード企業投資スキーム(Seed Enterprise Investment Scheme)(SEIS)を利用した資金調達が25万ポンドまで可能となり、これにより投資家は税制優遇を受けることができるようになります。
- (従業員持株制度の下で)従業員に対して付与できる新株予約権の上限が 3 万ポンドから 6 万ポンドに倍増しました。
印紙税の引き下げ
- イングランド及び北アイルランドで住宅用不動産を購入する際に支払う印紙税(Stamp duty land tax(SDLT))が引き下げられます。
- 250,000ポンドまでは印紙税は非課税となります(この金額は125,000ポンドから引き上げられました)。初回購入者の場合、(この非課税部分が)425,000ポンドに引き上げられ、即時適用されます。
- 政府は、この結果、20万人以上の人が印紙税を支払う必要がなくなるとしています。
- 海外投資家が住宅を購入する際に適用される2%の海外課徴金(Overseas Surcharge)は変更されません。また、追加住居(Additional Dwellings)の購入に関して適用される3%の課徴金にも変更はありません。
英国における投資区域の創設
英国内の最大38の地方自治体で、近々投資区域が設置される予定です。
これらの投資区域内に事業所を構えることを希望するスタートアップ企業は、以下のような特典を受けることができます。
- 新規に入居または拡張した事業所に対する事業所税の100%が免除されます。
- 初年度の工場および機械設備に対して、100%の減価償却が得られます。
- 50,270ポンドまでの新入社員の給与に対する国民保険の第一種(Class 1)雇用者負担分が免除されます。
- 商業用または住宅開発用に購入した土地の印紙税が免除されます。
- 毎年、土地や建物の取得費用の20%について控除(Enhanced Structures and Buildings Allowance)を受けることができます。
EU法の失効
- The Retained EU Law (Revocation and Reform) Billが発表されました。
本法案が成立した場合、(The European Union (Withdrawal) Act 2018に基づいてEU離脱後も)維持されてきたEU法は、特に明示的に維持されない限り、2023年12月31日に自動的に失効することになります。
労働争議の制限
- 鉄道部門などのストライキを減らすために、法律により、最低限のサービスレベルが導入されます。
- すべての労働組合に対し、雇用主からの給与提示を組合員投票にかけることを義務付ける新たな法律が導入されます。
企業向けエネルギー支援
- 2022年10月1日開始の「光熱費救済スキーム」(Energy Bill Relief Scheme)は、非家庭用の供給契約を結んでいる企業に対して、ガスと電気の単価を6カ月間割り引くものです。ミニ・バジェットは、そのための資金調達方法について説明しています。
移民政策に関する最新情報
さらに、首相は英国に入国を許可される労働者の数の引き上げを予定していることが報じられています。報道によると、政府は季節労働者である農業従事者やブロードバンドエンジニアに対する上限を撤廃し、その他の不足職種リストにも変更を行い、主要セクターでより多くの海外スタッフを採用できるようにする予定であるとのことです。財務相は、「内務大臣は、移民政策に関する最新情報を今後数週間のうちに提供する予定」であることを確認しました。
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