増額限定賃料改定条項(upward-only rent review)とは、多くの商業用賃貸借契約に盛り込まれている条項で、賃料改定に際して、増額はあっても減額は認めないという取り決めを指します。賃料改定は通常数年ごとに行われ、不動産の市場価値やインフレ指標、または事前に合意した一定額に基づいて見直しが行われます。家主にとっては収入の安定を確保できる一方で、経済状況次第では、借主が市場相場を超える賃料を支払うことにもなりかねません。
本ニュースレターでは、この条項の概要、廃止の可能性、今後の賃料改定のあり方、そして家主および借主双方への影響について解説します。
本条項の廃止に向けた動きはあるのか
現時点では、イングランドおよびウェールズにおいて増額限定賃料改定条項は依然として合法です。しかし、その見直しや全面的な廃止の是非について、政界や業界内での議論が高まっています。仮に本条項が禁止された場合、その適用対象は既存契約ではなく新規契約に限られる見込みです。つまり、既存契約については、当事者双方が合意して変更しない限り、現行の条項が引き続き適用されることになります。
今後の賃料改定はどのように行われるのか
増額限定賃料改定条項が廃止された場合、賃料条項は増額・減額いずれの変動も認める必要があります。これにより、賃料は市場の実態により近づき、経済低迷期における借主の保護にもつながります。
本条項に代わる賃料改定の取り決めとしては、以下が考えられます。
- 公開市場の相場賃料に基づいて、増額・減額のいずれも認めるオープン・マーケット・レント・レビュー方式
- 消費者物価指数(Consumer Prices Index (CPI))や小売物価指数(Retail Prices Index (RPI))に連動し、増額・減額双方向に調整可能なインデックス方式
- 特に小売業や飲食業に適用される売上連動型賃料方式
- 時間の経過に応じて増額または減額する固定ステップ方式
家主にとっての影響
家主にとって、増額限定賃料改定条項の廃止は収入の変動リスクを高めることになります。これに伴い、物件の評価、融資スキーム、投資戦略などを再検討の必要が生じる可能性があります。想定される対応策としては、以下が挙げられます。
- 既存の契約書ひな型や保有ポートフォリオの見直し
- 賃料が減額される場合を想定したキャッシュフロー・シナリオの作成
- 融資元と協議し、賃料上昇を前提としない融資条件を検討
これらを早期に実行することで、将来的な法改正にも円滑に対応することが可能となります。
借主への影響
借主にとっては、とりわけ市場が低迷している局面において、より公平な賃料設定ができるというメリットがあります。これによりキャッシュフローが改善され、市場水準を上回る賃料を支払うリスクを抑えることができます。また、契約更新時の交渉においても、より有利な立場を確保しやすくなります。検討可能なポイントとしては、次のようなものが挙げられます。
- 契約期間の短縮や、より頻繁な賃料改定
- 業績に連動した賃料改定条項の導入
- 経済状況の変化に応じて柔軟に対応できる解約条項の設定
こうした準備をあらかじめ進めておくことで、自社の事業ニーズに合致した条件にできる可能性が高まります。
既存契約への影響
法改正が行われても、遡及的に適用される可能性は低いと考えられます。したがって、現行契約は有効に存続し、増額限定賃料改定条項も当事者が合意して修正しない限り、引き続き適用されます。ただし、法改正後に更新や再契約が行われる場合には影響を受ける可能性があるため、あらかじめ計画を立てておくことが重要です。
3CSにできること
3CSでは、商業用賃貸借に関する法改正の動向を注視し、その影響について助言を行っています。契約書のレビュー、適法な賃料改定条項の作成、契約更新やポートフォリオ管理のご支援が可能です。投資価値を維持したい家主の方から柔軟性を求める借主の方まで、明確で実務的なアドバイスをお届けします。どうぞお気軽にご相談ください。