2023年2月1日、英国最高裁判所は迷惑行為に関する法律を大幅に変更する判決を下しました。Fearn and others v Board of Trustees of the Tate Galleryの判決は、広範囲に影響を及ぼすものです。商業用建物の賃貸人、開発業者、賃借人および不動産所有者は、特にその建物が他の建物を見下ろす形となる場合、大きな影響を受ける可能性があります。
この裁判例の事実関係はどのようなものか?
ロンドンのTate Modern Galleryの一部であるBlavatnik Buildingの最上階に、展望台を含む新しい増築部分が開設されました。この展望台を訪れた人は、ロンドンのスカイラインを望めるだけではなく、隣接するフラットの中も覗くことが出来てしまいました。隣接するフラットの居住者は、この状況はプライバシーの侵害であり、visual intrusionつまり視覚的な侵害に値すると感じました。そして英国最高裁判所は、この訴えを認めました。
この判決は開発業者や家主にどのような意味をもたらすのか?
ある建物が他の建物を見下ろす形となる場合、視覚的な侵害による迷惑行為となる明確なリスクがあります。かかる主張の是非は、各事例毎に評価されるので、不動産開発業者や既存または将来の不動産所有者は、迷惑行為とみなされるリスクがあることに留意をする必要があります。裁判所は侵害者に対し、当初想定していた方法での不動産の使用の差止めを命じたり、不動産の所有者に対して損害賠償を命じることも出来るため、その経済的な影響は深刻になる可能性があります。
迷惑行為となるリスクを最小化するために何が出来るか?
建物を設計したり、建築する際、とくに近隣に住宅用不動産がある場合は、その建物の使用者が、近隣の住宅用不動産を視覚的に侵害する可能性がないように、開発業者は細心の注意を払わなければなりません。実際問題としては、床から天井までの窓が採用された建物が多いセントラルロンドン周辺では、(視覚的な侵害を一切避けることは)非常に難しい、もしくは不可能なことかもしれません。
家主は、(賃借人による)視覚的な侵害による迷惑行為が生じるリスクを最小化するために、賃貸借契約に、賃借人の行動を制約するための十分な規定を入れ込む必要があります。賃借人は、賃貸借契約上、賃借人に転嫁される可能性のある制約のリスクから自身を守ることに留意する必要があります。
権利放棄証書 (Deed of Release)とは何か?どのように役立つのか?
不動産所有者または開発業者は、居住者もしくは同様の影響を受ける当事者と交渉の上、権利放棄証書 (Deed of Release)を利用して対応策を合意したり、補償金を支払うことで、迷惑行為の主張を回避出来る場合があります。このような権利放棄は、日照権に関する交渉やその権利放棄と同様に、関係する不動産の不動産登記簿に記載することができます。これはいまだ発展途上の法分野ですが、将来的には、不動産鑑定業者がこのような「迷惑行為に関する権利」の放棄の価値を定量化できるようになるかもしれません。
3CSにできること
商業用賃貸人または賃借人の方は、迷惑行為が起こる可能性について適切なアドバイスを受けることが非常に重要となります。Fearn and others v Board of Trustees of the Tate Galleryの判例は、これまでには考えられなかった形で、迷惑行為と認定され、行為制限を課されるリスクを大幅に拡大させるものでした。弊所では、権利放棄証書 (Deed of Release)に関する交渉やその作成を含めた、(迷惑行為に関する)リスクを特定し、最小化するための様々な法的アドバイスのご提供が可能です。
商業用不動産に関するより詳細な法的アドバイスが必要の場合は、担当者にお問い合わせください。