2025年9月1日、英国で新たに法人向けの詐欺防止規定が施行されます。この規定は、2023 年経済犯罪および企業透明性法(Economic Crime and Corporate Transparency Act 2023 (ECCTA))に基づき導入されるもので、法人を対象とする犯罪類型である「詐欺防止不履行罪」が新設されます。
以下では、企業が本規定の要点を把握し、施行日までに必要な対応を進めるためのポイントを解説します。
「詐欺防止不履行罪」とは
本罪は、ECCTAにより導入される新たな法人犯罪類型であり、従業員や代理人などの関係者が、法人の利益のために詐欺行為を行った場合、法人が刑事責任を問われるというものです。法人が事前に適切な詐欺防止措置を講じて
いなかった場合、起訴される可能性があります。本罪は2025年9月1日より適用が開始され、猶予期間は設けられていません。したがって、企業は早急に対応を進める必要があります。
本規定の適用対象
本規定は、主に大規模法人を適用対象としており、ECCTAにおいては、前会計年度内に以下の3つの要件のうち2つ以上を満たす場合、「大規模」と見なされます。
- 全世界におけるグループ全体の年間売上高が3,600万ポンド超(英国事業が小規模であっても対象となります)
- 資産総額が1,800万ポンド超
- 従業員数が250人超
企業やパートナーシップのほか、一部の非営利団体も対象に含まれます。また、小規模な法人であっても、その親会社が大規模法人である場合、処罰の対象となる可能性があります。
これらの基準を満たさず、大規模法人の子会社にも該当しない中小企業は本罪の適用外となりますが、大規模法人に該当し、英国に拠点がある、英国で活動しているなど、英国との関わりを有し、詐欺行為やその影響が英国で生じた場合は、外国法人であっても本罪の適用対象となります。
企業が遵守すべき事項
関係者による詐欺行為が発生した場合に、本罪の適用を免れるためには、企業は、予め「合理的な詐欺防止措置」を講じておく必要があります。これは、企業内および関係者による詐欺行為を検出・防止するために、積極的な対策を講じることを意味します。英国政府は、合理的な措置として認められるための原則をまとめたガイドラインを公表しており、企業が検討すべき事項として、以下の点を挙げています。
- リスクアセスメント:詐欺が発生し得るリスク領域を特定するためのリスクアセスメントを実施すること。
- リスクに応じた統制:詐欺リスクに応じたポリシーの策定や統制、デューデリジェンス手続を導入すること。たとえば、外部代理人を起用する際の厳格な審査の実施や、高リスク取引の監視・監督制度の導入などが挙げられます。
- 経営陣の関与と研修:経営陣が詐欺を容認しない組織文化の醸成を積極的に推進し、従業員および関係者の詐欺防止方針への理解を深めるために研修や周知を行うこと。
- 継続的なモニタリング:策定した詐欺防止手続を定期的に見直し、必要に応じて更新し、その有効性を継続的に確認すること。
これらの対応を執っておくことで、「合理的な措置を講じていた」と示すことができ、仮に関係者による詐欺行為が発生した場合でも、法人としての刑事責任を免れる可能性があります。
詐欺防止に失敗した場合の影響
企業が本罪について有責となった場合、刑事訴追の対象となり、無制限の罰金が科される可能性があります。また、企業の評判にも深刻なダメージが及ぶ恐れがあります。英国当局はこの問題に対して厳格な姿勢を示しており、重大不正捜査局の局長Nicholas Ephgrave氏は次のように警告しています。
「9月になっても企業が適切な措置を講じていないようであれば、我々は動きます。我々は、本罪を犯した者を訴追することに強い意欲を持っています。違反者には代償を感じてもらわなければなりません。」
3CSにできること
ECCTAの要請に対応するには、専門的な知識と準備が必要です。3CSでは、詐欺防止措置の見直し、リスクの特定、法令遵守に向けた体制構築について、実務に即したサポートを提供しています。詳細なアドバイスや支援をご希望の場合は、ぜひ弊所までお問合せください。